生産者の多くは、ブドウの皮などにもともと存在する野生酵母よりも、培養酵母の方が信頼できると考えている。培養酵母を使えば、発酵の開始が早まり、糖分が全てアルコールに変わるまで続くことが分かっているのだ。
一方、野生酵母にはリスクがある。発酵が正しいタイミングで始まらないかもしれないし、働きが弱ければ最後まで発酵が続かない可能性もある。しかし野生酵母を選ぶ人々は、その機能には問題がなく、生産現場の環境に存在する酵母を使う方がより自然だと考えている。
野生酵母と培養酵母は、どちらかが他方より優れているのだろうか? そうとは限らない。
野生酵母は、多くの種類の酵母から構成されている。その中には、糖分をアルコールに変える能力が高いものもあれば、運が悪かったり注意が不足したりするとワインに悪い臭みをつけてしまうものもある。
平均的な環境に存在する野生酵母の約半分はサッカロミセス・セレビシエと呼ばれる種だ。これは培養酵母としても最も一般的な種で、ワインの他にもビールやパン、菓子作りに使われる。
他に重要な野生酵母には、クロエケラ・アピクラタやトルラスポラ・デルブルエキーなどがあり、これらは主に発酵の初期段階に働く。自然発酵には多くて30種類ほどの酵母が関与し、異なる種類の酵母が順番に作用する。アルコールの量が増え、タンクが温まると、一部の酵母は死に、他の種にとって代わられる。
サッカロミセス・セレビシエは、自然発酵の初期段階では濃度が低いが、後期には他の種と競うようになり、最終段階まで必ず残る種だ。異なる温度に順応でき、アルコール度数や硫黄の水準が高くpH値が低い環境でも死滅しないため、ワイン作りの主要な酵母として非常に適している。また、全ての糖分を発酵させる重要な力も備えている。
酵母タンクに培養酵母を加えると、非常に強い種であるサッカロミセスが他の種を圧倒し、野生酵母は死んでしまう。ただ、他の種が必ず全滅するとは限らない。追加した酵母が天然のサッカロミセスと同時に働く可能性もある。