ニオイは他者と関わる際に“重要な情報”として機能している(詳しくは連載第1回、第2回参照)。しかし、自分のニオイが周りにどう思われているのか、見えない分なおさら気になってしまう経験は誰もがあるだろう。これから夏場にかけては、特にニオイが気になる季節だ。
話を聞いたのは、体臭を見える化し、ニオイの悩みを解決するオドレート代表で、臭気判定士の石田翔太だ。
ニオイの元、最初は無臭?
オドレートは体臭を客観的に評価することで、自分では分かりにくく人に相談しづらい、ニオイの悩みを解消することを目指す企業だ。体臭評価キットの提供やニオイについての情報発信を行っている。
体臭の評価は、専用の機器と臭気判定士によって行われる。オドレートが提供する、均質な状態にしたごく普通のTシャツを1日着て過ごし、返送すると、どの臭気物質がどれくらい含まれているかを機器で分析、かつ臭気判定士が実際にニオイを嗅いで、そのニオイを嗅いだ周囲の人がどのような印象をもつのか、ニオイの原因と印象・タイプを突き止める。
開発したサービスを実装するため、2018年にマクアケで行ったクラウドファンディングでは、30万円の目標額に対して150万円以上が集まり、これまでに1000人以上がこのサービスを利用しているという。
ちなみに臭気判定士とは、公益社団法人におい・かおり環境協会が実施する国家資格で、日本に2000人ほどの資格保持者がいる。もともとは公害や工場のニオイに困る地域に事業所や行政から依頼されると出向き、ニオイの判定を行うのが主な仕事だ。オドレートでも、実際に人が嗅いで行う判定は、臭気判定士が用いる評価方法を採用している。
オドレート代表、臭気判定士 石田翔太
ニオイに関する悩み相談も行う石田は、こう話す。
「ニオイの悩みは本当に人それぞれです。側から見たら順調に見える人生を送っている人が、人にバレないように心のなかで悩まれていたんだということもあります。忙しくて1日お風呂に入れなかったなど、人間は誰しも臭くなりえます。そんなふとした瞬間に自分からニオイを感じると、周りの人もニオイを感じているのかなという疑問がわきます。
自分が会議室に入ったら窓を開けられたとか、電車で座ったら自分の隣だけ席が空いてるとか、そういう自分のニオイが原因かもしれないと考えてしまうことが日常で起こることによって、だんだんと疑問が確信に変わっていく。
人には聞けないからこそ、他愛ない疑問が確信に変わってしまう。しかも、もし人から冗談で指摘されたとしても、否定できないじゃないですか。ニオイの悩みは見えないからこそなのかなと思います」
原因を知って正しいケアを
そもそも体臭はどのように発生するのか。そのニオイの元となるのは、汗と皮脂だ。
汗や皮脂は分泌直後はほぼ無臭だが、それらが皮膚上の常在菌と接触することで、常在菌が作用して物質が変化し、ニオイを有するものに変わり、いわゆる体臭のとなる。
また、汗を排出する汗腺(毛穴)には大きく2種類ある。
「全身にあるエクリン腺というものと、アポクリン腺という脇や胸回りなど体の限られた部分にしかないものがあります。エクリン腺から出る汗は99%以上が水なので、常在菌と接触してもニオイの直接的な原因にはならない。一方、アポクリン腺から出る汗はタンパク質や脂質、アミノ酸などを含んでいて、常在菌と接触することでワキガ臭などの原因になります」