──水口社長が考える、ラグジュアリーに必要な要素は何ですか。
水口:時代を超えて引き継がれていく普遍的なものと、時代や人に合わせて変わっていく可変的なものという2つの軸があると思います。昔、イタリアに住んでいた時に女の子の友人がとても素敵なピンクのカーディガンを着ていて、おばあちゃんの代からずっと着ているものだと教えてくれました。それって、まさにラグジュアリーですよね。コーヒー豆も同じで、本当に素晴らしい生産者さんの畑は次の代へと大事に引き継がれていきます。本当に価値あるものは受け継がれていくのだと感じました。
また、基本的にラグジュアリーとは人生を豊かにするものだと思っています。モノであれ体験であれ、その人を幸せにしたり気分を上げたりしてくれるもの。何に豊かさを感じるかは人それぞれですが、先にも言った通り、昔に比べると豊かさのバリエーションは確実に広がっています。
──ラグジュアリーの在り方が多様化するなかで、スターバックスに求められていることは?
水口:今はテクノロジーが発達して、クイックに人と繋がれるようになりました。スマートフォンやSNSが普及し、コミュニケーションのあり方もどんどん変わる一方で、先ほども言った通り、人と人との繋がりは一層価値を高めています。コロナ禍においては尚更です。先日、小さいお子さんと一緒に来店されたお客様にパートナー(店舗スタッフ)がデカフェメニューをご提案したところ、「産休中、どんどん社会から離れているように感じていましたが、私のことをちゃんと見てくれていることが嬉しく、温かい言葉をかけていただき元気が出ました」という感謝のお手紙をいただきました。お客様との繋がりをつくることが求められていると感じます。
──テクノロジーの発達はたしかに私たちのライフスタイルに大きな影響を与えていますが、スターバックスのブランドにはどのように影響していますか。
水口:我々が大切にしている人と人のつながりは、テクノロジーが邪魔するものではないと思っています。モバイルオーダーが普及してレジ業務が不要になったとしても、違うところで新しいコネクトが生まれるからです。一般的にテクノロジーというと、効率性や利便性を高めるために導入するのでしょうが、スターバックスは少し違います。例えば、スターバックスのアプリには「マイストアパスポート」というデジタル御朱印帳のような機能があり、利用した店舗のスタンプを集めることができます。現在、全国に1,600を超える店舗がありますが、それら全ての店舗にオリジナルのロゴスタンプがあるんです。店舗ごとにスタンプをつくるのは意外と大変なのですが、集める楽しさがありますよね。プリペイドカードも同様に、シーズンごとにデザインを変えているので選ぶ楽しさや集める楽しさがあります。スターバックスにはそういういい意味での無駄が多いんです。テクノロジーやデジタルは、あくまでアナログな繋がりをサポートするものだと思っています。