〈前編:スタバ日本上陸25周年 「変わったこと」と「変わらないこと」〉
──スターバックスはコーヒーブランドのリーディングカンパニーでありながら、ラグジュアリーのトップブランドでもあると思いますが、水口社長はスターバックスブランドをどのように捉えていますか。
水口貴文(以下、水口):スターバックスがラグジュアリーブランドかと言われたら、それは定義次第だなと思います。少し前までは、ラグジュアリーといえば、高価でつくりの良い鞄や洋服ブランド、またはそれを所有することを指していましたが、今では食事や暮らし、体験に対しても使うようになってきました。我々がやっていることは、日常のなかにちょっとした非日常を演出することです。スターバックスコーヒーは今年で日本上陸25周年を迎えますが、この25年間、1杯のコーヒーを通して人と人とのつながりをつくることを大切にしてきました。我々はもちろんコーヒーのブランドなのですが、主役は人です。人を大切にしていることこそスターバックスのブランド価値であり、今はそのような人とのつながりや人の温かさという価値が増しているように感じています。
写真提供:スターバックス
──以前は鞄や洋服を指していたラグジュアリーが、暮らしや体験にまで領域を広げてきたのは何故だと思いますか。
水口:自己表現の幅が広がったからではないでしょうか。以前は高級なバッグを所有することやそれを他人に見せることで表現していましたが、今はSNSで日常を切り取れるようになりました。レストランでのおいしい食事や優雅なホテルステイの写真をアップすることが、高級なバッグを誰かに見せることと同じ価値を生んでいるのだと思います。また、ラグジュアリーや豊かさの定義自体も変わってきましたよね。以前は高価なものを求めていたけれど、今はその商品の背景にあるストーリーにより注目が集まっているように感じます。サスティナビリティへの取り組みという視点もあるでしょう。ライフスタイルや働き方もどんどん変わってきていますから、当然、求めるものも多様化しています。我々は、ただコーヒーを提供するのではなく、ひとりひとりのお客様に向き合って接客することを大切にしているので、その空間を心地いい、豊かだと感じてくださる方がいるのかもしれません。