ZIPAIRでは、無料wifiを使うこともできる。西田社長は「お客様が没頭できたり、自分のやりたいことをストレスなくやってもらえる環境が一番いい」と話す。
またLCCで初めて、セルフオーダーシステムを導入。機内で販売する商品を、自分のスマホなど手持ちの端末から注文できる。同様にLCC初のサービスとしてウォッシュレットトイレも設置した。トイレは車いす使用者だけでなく、介助者も一緒に入ることができる広さだ。
「我々はイチから作る機会に恵まれた。地上でできていることを空に持ち込んで、飛行機の上だからといって諦めていただくことのないのようにしたい」と思いを述べる。
LCCでここまでできるのはなぜ
これだけのサービスを、低価格で提供できるのはなぜか。
まずは稼働率を極限まで高めたことにある。FSCの1機あたりの稼働時間は、1日12時間ほど。だが、ZIPAIRの飛行機は1日18時間程度、空を飛んでいる。つまりFSCの1.5倍稼働できていることになる。
それが実現できるのは、バンコクと韓国、成田を1機で繋いでいるからだ。着陸してから飛び立つまでの間隔を短くし、空港での滞在を極力少なくしている。
提供:ZIPAIR Tokyo
もう一つは、座席数を増やしたこと。ZIPAIRでは、搭乗客に前もって食事の有無を確認することで、食事カートや収納場所といった「台所」のスペースを削っている。さらに、シートの個人モニターの装備や荷物収容のボックスもなくすなど、無駄を排除した。
JALからリースしている機体の座席数は、改修前の206席から290席に増え、FSCの約1.5倍になった。一席分の重量は改修前に比べて29%少なくなり、機体全体は以前より軽量化され、環境にも優しい飛行機に生まれ変わった。
こうした努力により「稼働時間1.5倍x座席数1.5倍=2.25倍」と、FSCと比べて2倍以上の生産量を生み出すことに成功している。
他社との競争も歓迎
次々と独自戦略を生み出せば、他社も追随する。全日空(ANA)は昨年10月、中長距離LCCを立ち上げ、22年度をめどに、東南アジアやオセアニアへの運行を目指すと表明した。ZIPAIRと同じくボーイング787機を使用するという。
だが、西田社長は、競争に対してもポジティブな姿勢だ。
ZIPAIR Tokyo 西田社長
「中長距離LCCが、選択肢として市民権を得るためには、業界が盛り上がらないといけない。お客様に切磋琢磨する姿を見てもらったほうが、パイは広がると思っている」
コロナ禍でも果敢に挑戦を繰り返してきたZIPAIR。海外では、長距離路線から撤退したLCCもあるが、果たして国内格安航空初の「太平洋を渡るパイオニア」になりうるか。引き続き動向に注目したい。