ワクチン接種済みであれば、屋内の大半でマスク着用をやめ、ソーシャルディスタンスをとらなくてもよいとする5月中旬の発表は、CDCがパンデミックを通じて一貫してとってきた立場を大きく転換するものだ。この決定は、厳しい批判にさらされている。実際のワクチン接種証明を必要とせず、信頼を前提としたこの指針について、多くの人は、非現実的で混乱を招くものだと感じている。
米国では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの性質やマスク着用などの制約をめぐって激しい党派対立が起きており、ワクチン接種に対する強い躊躇が全土に根強く残っている。そうしたことから、自己申告に任せる新指針を受けて、多くの企業や組織は、どうすればこの方針を実行できるのかと頭を悩ませている。
全国的なシステムが存在しないため、接種を証明する既定の方法としては、予約時に交付されるワクチン接種証明カードが使われるようになっている。この紙のカードは、情報量の少ないごく基本的なもので、手書きで記載されるので、偽造が比較的容易だ。
カードの公式なテンプレートは、政府の各種サイトを含め、オンラインで自由に入手できる状態だった。ただし、「悪用」が発覚し、カード作成方法の概要を説明する反ワクチンサイトも増えていたことから、CDCの要請により削除された。
ワクチン接種の証明を求める大学や雇用主は多いが、それを証明する数少ない方法のひとつが薄っぺらい接種証明カードであるという現状から、過去3カ月のグーグル検索データでは、「紛失した」カードを探す人や、ラミネート加工できるかどうかを調べる人も大きく増加していることが示されている。
ジョー・バイデン大統領の首席医療顧問を務めるアンソニー・ファウチ博士は、新指針に関する人々の「誤解」を解こうと奮闘している数多くの公衆衛生当局者のひとりだ。ファウチは5月19日、「当然のことながら、ワクチンを接種していない人がマスクを外してもいいと言っているのではない」と語り、ワクチンを接種した人は「屋外でも屋内でも……安心できるということだ」と付け加えた。