インドが公式に発表するこれらの数値は、おそらく大幅に過小評価されている。検査の陽性率は急上昇しており、見逃されている新規感染者数が相当数にのぼることを示している。
まとまりがなく脆弱なインドの医療制度は、大きくゆがんでいる。病院は感染者であふれかえり、多くが対応を拒否されている。病床は不足し、あらゆる医療用品が底を突いている。
こうした状況になる直前、インドは高い人口密度のわりには感染の拡大をよく抑えており、死者数も比較的少ないとされていた。だが、カナダ・マギル大学のマドゥ・パイ教授(疫学・グローバルヘルス)が指摘するとおり、現在は世界中にとっての教訓的な例となっている。
新型コロナウイルスに対する政府高官の「勝利宣言」は早すぎた。ナレンドラ・モディ首相は今年2月中旬、新型コロナウイルスとの戦いにおけるインドの勝利は、世界中を奮起させているとまで言い切っていた。当局は感染拡大を防ぐために行っていたロックダウン(都市封鎖)の大半を解除していた(現在は一部で再び実施)。
公衆衛生に関する政府の下手なメッセージのおかげで、国民は気を緩め、多くが感染対策に必要な行動を取らなくなった。選挙集会や宗教行事など、大勢が集まるイベントも開催された。
一方、インドには高いワクチン生産能力があるにもかかわらず(セラム・インスティチュート・オブ・インディアはワクチン生産の世界最大手)、人口100人あたりのワクチン接種回数は、中国、欧州のほぼすべての国、そして米国と比べ、相当に遅れている。
デリーなど一部の地域で数カ月前に行われた抗体検査では、住民の最大50%に抗体が確認されていた。それにもかかわらず、感染者はこれらの地域で今、世界中のどの国がこれまでに経験したよりも早いペースで増加している。