僕はというと、ずっと手売りで一人ずつファンを増やしていったんですね。どこで展示しても買う人は買ってくださるから、ギャラリーの販売能力に頼らなくてもよかったし、リーマンショックや東日本大震災後、現在のコロナ禍下においても、変わらず一定層が買ってくれている。
そんな自分の理念は、お客さんと共犯関係になること。僕の作品や「杉田陽平」というコンテンツが盛り上がったとき、アート業界も変わる。「その共犯者になりませんか?」ということなんです。
遠山:私も鑑賞者のひとりとして、作家半分、鑑賞者半分で、初めて作品が成立すると思っているから、杉田さんの言わんとすること、よくわかります。
杉田:『バチェロレッテ・ジャパン』に参加しようと決めたのも、そんな想いがあってのことでした。知り合いのギャラリストたちからは「作品に色がついて売れなくなる」「他の現代美術家の世間的イメージも下がってしまうかもしれない」と猛反対されたけれど、僕は何か光があるんじゃないかなと思った。嘘はなく、正直に自分のありのままを見せることで、アーティストが何を考えて世の中を見ているか、女性を捉えているか、アートがどれだけ素晴らしいかが伝わるのではないかなと。
『バチェロレッテ・ジャパン』の杉田の出演シーン(C)2020 Warner Bros. Internatinal Television Production Limited
遠山:なるほど、いまの話だけでもその番組、見たくなりました。杉田さんはYouTubeもやっているんですよね?
杉田:番組終了後に「杉ちゃんのカラフル日記」というチャンネルを始めました。やってみて、あらためてわかったことがひとつあります。作品が売れて幸せなのはアーティストだけでなく、購入した方の満足度もすごく高いということ。
ArtStickerの支援制度と通じますが、YouTubeライブをしたとき、スパチャという投げ銭機能をなしにしたら、「制作を頑張ってほしいから、機能をつけてください」というコメントがたくさんあったんです。作品を買うこと、作家の未来をともにシェアすることは素敵な行為だと気づいた人が増えたのだと思います。アート界の常識だけが定石とは限らない、ということを確信する一件でしたね。
アートはビジネスではないが、ビジネスはアートに似ている
杉田:アートを、自らの集める楽しみにする人もいれば、資産として売買する人もいます。遠山さんはご自分でもアート収集をされていらっしゃいますが、日本のアート市場について思うところはありますか?
遠山:日本はセカンダリー(主にオークション)のマーケットはあまり成立していない。だから実際にそれで儲けようというのはちょっと幻想的なところがあるんです。
では、所有欲かというと、それほど囲い込みたいと思っているわけでもない。壁にかけて眺めたいのかというと、部屋が狭いから飾りきれない分は押入れや倉庫にしまってあったりする。実に不思議なモチベーションだなあと思っていたとき、ひとりのコレクターが「これは契りなんだ」と言った。
つまり、自分はあなたの作品が好きだ、あなたを応援しているという意思表示ということ。いまや買う側も自分の美意識や価値観で厳しく選択する時代なんですよね。
かくいう私自身も、洋服を買うときに店員に「これ、売れていますよ」と言われると、急に買う気がなくなっちゃう(笑)。