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2021.05.27

遠山正道x杉田陽平 「所有」ではなく「支援」というアートの楽しみ方(前編)

「The Chain Museum」CEO 遠山正道(左)と現代美術家 杉田陽平(右)

スープ専門店「Soup Stock Tokyo」を展開するスマイルズを創業した遠山正道が新たに始めた事業「The Chain Museum」は、遠山本人が子どものころから親しんでいたアートと一般の人々を繋ぐ架け橋だ。

一方、武蔵野美術大学在学中から活動を始めた杉田陽平は、「未知なる絵画をつくる」をテーマに、大胆かつ独特のフォルムの抽象画作品を数多く制作し、個展を開けば即完売という現代美術家のひとり。

そんなふたりが「ポストコロナ時代におけるアートの可能性」を語りつくした。前半は、遠山のアイデアが具現化した、アーティストを少額から直接支援できるプラットフォーム「ArtSticker」の意義、杉田がAmazon Prime Videoで独占配信中の婚活サバイバル番組『バチェロレッテ・ジャパン』シーズン1に参加した理由、杉田自身の立体作品を目の前に現代アートの魅力について──。


現代アートは、買う方も表現者である


遠山正道(以下、遠山):申し訳ない、私は杉田さんの作品を知らなかったんだけど、先日の「アートフェア東京2021」(日本最大級の国際的アートフェア。古美術・工芸から、日本画・近代美術・現代アートまで幅広い作品が展示される)でも完売だったそうですね。何点、出されたんですか?

杉田陽平(以下、杉田):30点くらいです。

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アートフェア東京2021 杉田陽平の個展会場

遠山:それが完売! すごいですね。

杉田:恐縮です。僕は遠山さんのことは一方的に存じ上げていて、ArtStickerもアカウントを持っています。

遠山:嬉しいです。

杉田:現代アートで言えば、ArtStickerはトップ3に入るくらいのプラットフォームで、名だたるアーティストはみんなやっていますよね。操作性もスムースだし、作品が並んでいるだけではなく、描いた人の想いや新しいトピックを簡単に発信できるところもいいなと思いました。

遠山:作品はもちろん大事なんだけど、作品が生まれた背景や、どうして作家になったのか、鑑賞者とどういうコミュニケーションがあったかなども、アートが好きな人たちに知ってほしいんですよね。

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作品購入だけでなく、アーティストの直接支援や、イベントや展覧会チケットの購入も可能なArtSticker

杉田:僕も展示の際には会場にいて、来場者の方々とお話しすることを続けていますが、そもそも現代アートってストーリーありきな気がするんです。

例えば、鉛筆を売るとします。他の鉛筆より書きやすいとか消しゴムがついているとか言っても、必要でなければ見向きもされないし、愛着だってもってもらえない。

でも、「この鉛筆を見ると、母のことを思い出すんですよ……。僕は不器用だから、母が毎晩削ってくれた。その削りかすが火鉢に入って、いい匂いがぷーんと漂ってね」「勉強はぜんぜんできなかったんだけど、鉛筆が短くなった分だけは頭がよくなった気がしましてね」なんて言うと、ちょっと心が動かされるというか。

遠山:それ、寅さんの名場面ですよね(『男はつらいよ』の第47作「拝啓 車寅次郎様」より)。いいなあ、すごくわかりやすい。

杉田:既存の雑誌やアートメディアというのは、いかにその作品が優れているかというのを教えたがる。でも、鑑賞者はそれ以外の部分──作家が何を訴えたいのか、何に苦しみ、何に立ち向かい、どんなことに感動しながら生きているのか、そういうアーティストの息吹がわかったときに、初めてシェアしたいな、買いたいな、集めたいなと思うのではないかと思うんです。
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取材・構成=堀 香織 撮影=山本マオ

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