今回の対談相手は、アートディレクターで、HAKUHODO DESIGN取締役社長の永井一史。2020年、デザイン経営をビジネスに実装することを目的とした、多摩美術大学クリエイティブリーダーシップ・プログラム(TCL)を立ち上げた。
石川はそこで特任准教授・プログラムディレクターに任命され、共にプログラムを開発している。グラフィックデザインをバックボーンに持つブランディングの専門家の永井と、プロダクトデザイン出身のデザインコンサルタントの石川。それぞれの視点で経営におけるデザインの役割と向き合うふたりが、ビジネスにおけるデザインの役割を語った。
石川:今日のお題は、ビジネスとデザインについてです。ご一緒しているTCLもそうですが、経営においてデザインがどのような力を発揮するかが、注目されるようになりました。経産省・特許庁も、2018年に「デザイン経営」というキーワードを打ち出しています。
永井:僕自身もその発表の研究会メンバーだったのですが、日本の産業競争力の低下を解決するには、経営者がデザインの重要性を認識しなければ駄目だということがコアのメッセージで、デザインをめぐる状況も変わってきたなと思いました。
石川:待ってました、という感じですよね。
永井:確かにイギリスでは、ブレア首相の時代にクール・ブリタニアというデザイン政策を打ち出していますし、中国をはじめとしたアジア諸国も、国としてデザインに力を入れていますね。そう考えると、まず第一歩というところかもしれません。
石川:デザイン経営という言葉は浸透してきていますか?
永井:デザイン思考という言葉は10年くらいかけて、ビジネスにかなり浸透してきたと思いますが、デザイン経営はまだまだですね。でも感度の高い方の関心は強く感じます。
石川:それはどんな方たちですか?
永井:職種で言うと、経営企画とか事業開発の方たちでしょうか。あと、ベンチャーの経営者や提供側としてビジネスコンサルの方もデザインを取り入れようとしていますね。
石川:ご一緒しているTCLでも、受講者に多いですね。
永井:大企業の経営者にも知ってもらいたいのですが、なかなか難しいです。その一方で、中小企業の経営者は重要性に気づくと、一気に会社が変わるので、その方が社会に浸透していくスピードが早いかもしれません。
石川:デザイン経営というのも広い概念なので、理解に時間がかかるということもありますよね。
永井:僕自身は、デザイン経営を、自分達の社会における存在意義を明らかにして、組織文化をつくり、新たな顧客価値を創造し続けるものと定義しています。
石川:永井さんはデザイン経営についてよく、美しいビジネスという言葉を使って説明していますよね。
永井:そうですね。美しいビジネスや美意識と創造性というキーワードもよく使っています。デザイナー同士だとわかると思うのですが、デザイナーの奥底にあるモチベーションというのは、世の中を美しくしたいという想いだと思うんですよ。
石川:まさしくそうですよね。