作品の重要な部分で、ガイ・リッチー監督は、イギリスのロックバンドであるザ・ジャムの「ザッツ・エンターテインメント(That’s Entertainment)」という曲を使用しているが、まさにその曲名通り、自ら難解な方向へ流れることを忌避するかのように、エンタテインメントに配慮した語り口を、90分の会話劇の部分で披露しているのだ。
また、過去形で語られる90分の物語の後に続く、現在形で進行する場面では、わずか25分足らずで、フレッチャーとレイの会話のなかに散りばめられたさまざまな伏線が見事に回収されていく。特に最後のシーンはガイ・リッチー監督らしい洒落の効いた幕切れになっている。
ヒュー・グラントの胡散臭い演技に注目
「ジェントルメン」では、主人公ミッキー役のマシュー・マコノヒーをはじめ、チャーリー・ハナム、コリン・ファレルなど豪華なキャスティングがなされているが、特に作品のほとんどの部分の語り手となる、私立探偵フレッチャー役であるヒュー・グラントの演技が出色だ。
大胆にも大麻密売組織から金をせしめようとする私立探偵役を演じるヒュー・グラントは、胡散臭いサングラスをかけ、不揃いな髭を生やし、自分の取材してきた犯罪の証拠を、前述のように映画の脚本に見立てて語っていく。いつもとは少し異なったダーティな雰囲気の演技が展開されていく。
『ジェントルメン』5月7日(金)全国ロードショー/配給:キノフィルムズ/(c)2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.
大麻密売組織を自分たちのものにしようとするアメリカ人の大富豪とチャイニーズマフィアの密談現場の証拠を押さえていたヒュー・グラント扮する私立探偵は、こんなセリフを口にする。
およそ大麻密売組織を強請るときのセリフではないが、ヒュー・グラントが口にすると、妙な説得力さえ感じる。
「この映画には長台詞がいくつもあって、僕もフレッチャーの長いスピーチを覚えるのに何カ月もかけた。ガイの台詞は示唆に富んでいるし、すごく大胆だ。それをちゃんと生きた言葉にして、自分のものにできるかどうかが僕にとってのチャレンジで、すごく楽しかったよ」
こう語るヒュー・グラントだが、ガイ・リッチー監督の脚本に対するこだわりは並々ならぬものがあり、最後の最後まで微調整し続け、その日に撮影するシーンもリライトすることがよくあったという。それだけにガイ・リッチーが力を入れた示唆と機知に富む台詞を楽しむのもこの作品の見方のひとつだ。
また、前述の台詞のように、映画にまつわる小ネタも随所に登場し、ガイ・リッチーが監督した過去作品のポスターなどもさりげなく登場するのでお見逃しなく。
ちなみに、この「ジェントルメン」は、米英では2020年1月に公開されている。なので、もう1カ月時期がずれていたら、「キングスマン ファースト・エージェント」のように公開延期の憂き目にあっていたかもしれない。
日本ではこの5月7日からの公開だったが、緊急事態宣言が続くなか、閉鎖されている映画館も多いと思う。営業が再開されたら、このクライムアクション・エンターテインメントで、コロナ禍の憂さを一気に晴らすのもいいかもしれない。
連載:シネマ未来鏡
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