若者が社会に対して感じるモヤモヤについて、第一線で活躍する社会人にぶつけて、より良いヒントを探る連載「U30と考えるソーシャルグッド」。今回は、感染症や呼吸器疾患の専門家である、日比谷クリニック副院長の加藤哲朗医師に、大学生を中心に活動するNO YOUTH NO JAPANのメンバーが、新型コロナウイルスのワクチン接種が日本が海外と比べて遅いことに対する疑問をぶつける。
(前回の記事:男性育休の権利放棄。ブラックな働き方、なぜやめられないの?)
日比谷クリニックは、海外渡航者に特化した「トラベルクリニック」であり、留学生や海外赴任者が多く訪れている。学生のなかには秋から留学を希望する人も多いが、海外の大学側の受け入れの見通しは立っていない。なぜ日本ではここまでワクチン接種のスピードが遅いのだろうか。
日本のワクチン接種が遅れているのはなぜ?
NO YOUTH NO JAPAN 田中舞子(以下、NYNJ田中):今年9月から留学を控えており、現状では行ける見込みがありません。欧米では新型コロナのワクチン接種が進んでいる印象ですが、渡航の際にワクチン接種が条件となることは不安が大きいです。どうして留学のためにワクチンが必要なのでしょうか。
加藤哲朗医師(以下、加藤):まず、そもそも国や地域、州、学校によって必要なワクチンが違うので、留学先や渡航先によってどのワクチンが必要かを知ることが大切です。
海外留学に際して留学生がワクチンを求められる理由は、本人を守るためだけでなく大学の集団生活を維持するためでもあります。ワクチンを受けていない1人が病気を持ち込み校内で広がると、健康面の問題だけでなく講義や実習といった、学校生活そのものもできなくなります。もともと欧米ではワクチンに対する信頼感が強いこともありますが、特に欧米の学校にはさまざまな国の人が来ることもあるので、日本より接種証明などの基準が厳しいのではないかと思います。
NYNJ田中:大学で求められるワクチンの基準の厳しさからも、日本と海外では意識の違いが大きいように感じます。海外の先進国に比べて、日本の接種が遅れている原因は何なのでしょうか。
加藤:予防手段があるならやろう、という考え方が特に欧米にはあり、また先ほどお伝えしたようにワクチンに対する信頼度が高いという背景があります。どの病気もそうですが、まずはかからないようにすることが大事です。新型コロナに関しても、当初は「若い人ならかかっても大丈夫」といった考え方もありましたが、最近は後遺症の問題や変異株によって若い方でも重症化することが明らかになり、やはり免疫を付けるためには罹患するのではなくワクチンを接種する方が良いという考え方になってきたと思います。
一方で日本では、かなり昔の話ですが集団接種の際の針の使い回しの問題や、近年では子宮頸がんワクチンの副反応が取り沙汰されてきたように、ワクチンそのものに対して有効性や安全性に疑問が持たれやすい傾向があるのではないかと思います。また、新薬の承認に時間がかかりやすい点も接種が遅れている原因の一つです。