また、バーチャルスポーツに加え、ソーシャルイノベーション、すなわち社会的な変革に対する期待が大きい。Tokyo 2020はテクノロジーに焦点をあてているようだが、日本の産業が持つ技術力を考えるとParis 2024大会がその面で上回ることは難しく、Paris 2024では前回大会との差別化の意味でも環境問題や不平等など、社会的な側面に焦点をあてている。
五輪のようなメガイベント招致は、イノベーション促進におけるトリガーの役割を果たすが、持続的な産業発展に繋げるためにはより多くの努力が求められる。そのためには、スタートアップ、大企業、政府・公共団体等あらゆるステークホルダーを巻き込む仕組み・エコシステムを構築することが重要になる。
パリ市はスポーツ産業におけるそのようなエコシステム構築を目指し、インキュベーションハブとしてLe Tremplinを設立し、スポーツに関する様々なイノベーション創出を目指している。Le Tremplinに対してはPwCフランスもスポンサー企業の一つとして名を連ねているが、様々な産業が連携することはスポーツ産業の持続的な発展に向けて重要である。
PwC Franceでスポーツビジネスを統括するEloi Pomé
──Paris 2024に関する話題が出ましたが、招致段階からサステナビリティをレガシーに挙げています。この大会が目指すこと、これまでの大会との差別化があれば教えてください。
先述のとおり、社会的イノベーションに最も注力している。特に社会・環境・経済の3領域を重視しており、具体的なアクションとして、食品供給サイクルを最小限に抑える、既存施設の有効利用等の取組みが実行されている。
また、五輪を通じてフランス国内の社会問題・不平等を解決することも目指している。フランスの社会問題の1つに、経済的に裕福でない地区や家庭を中心に、泳ぎ方を知らない若者が増えていることが挙げられる。結果として若い世代の水難事故が増えているが、これは環境問題を起因として泳ぐ環境が減っていることが遠因であると考えられている。水泳が五輪の人気競技であることもあり、招致をきっかけにパリ近郊の川の水質を向上させ、市民が泳げる環境の整備が進んでいる。
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このような社会的イノベーションの領域において高水準の運営を目指しており、世界に対してスポーツイベント開催の新たなモデルを示したいと考えている。この方針は招致段階初期から決まっていたことだが、COVID-19感染拡大により、ニューノーマルにおけるメガイベントの在り方としてますますメッセージ性が増している。