このプログラムは、今年8月まで参加希望企業および起業家からの申請を受け付け、書類選考を通過したファイナリストが10月にプレゼンを行い、最終的な参加社・者が決まるという流れだ。選抜された企業・起業家は11月から半年間、NBAとの後述する優先課題領域における研究開発パイロットプログラムに参加できるという。
「スポーツ×テクノロジー」領域の取り組みが難しいのは、どうしてもテック企業の持つ技術やサービスありきで、それを使うことが前提になる「シード・ドリブン」になりがちなところだ。この傾向が強く出過ぎると、顧客のニーズや解決すべき問題が置き去りにされ、結果的にファンには見向きもされないサービスになってしまう。あるべき姿は、ファンやスポーツ組織が抱える課題を出発的に、それをテクノロジーで解決しようとする「イシュー・ドリブン」だ。
協賛の枠組みを用いてテック企業をパートナーとして迎える場合は、さらにこれが難しくなる。なぜなら、テック企業はスポーツ組織のお客様になってしまうので、(必ずしもスポーツビジネスの専門家ではない)テック企業の意向を優先せざるを得なくなってしまうからだ。誰でもお金を払ってくれるお客様の機嫌を損なることはできるだけ言いたくないものだ。
こうした理由から、米国では協賛の枠組みとは別に、スポーツ組織がシードアクセラレーターと組んでテクノロジー活用の主導権を取り戻そうとする取り組みも見られる。
例えば、MLBミネソタ・ツインズは、Techstars社と組んで技術アクセラレータープログラム「Minnesota Twins Accelerator」を今年4月に開始した。3年間で30のスタートアップと協働し、本拠地Target Fieldを中心にファン体験の向上を目指す計画だ。MLBでは、ロサンゼルス・ドジャースにつづき2球団目の試みとなる。
Techstars社は2300社以上のスタートアップ企業に資金を提供するシードアクセラレーターで、うち12社がユニコーン(10億ドル以上の価値を持つ株式非公開のスタートアップ企業)に成長している。毎年世界中の300社以上のスタートアップが、同社の提供する大企業とのアクセラレータープグラムに参加しており、日本でもHONDAや楽天などが同社と提携してアクセラレータープログラムを実施した。
同社が提供するプログラムは、通常7~10%の株式と引き換えに、(1) 2万ドルのシード出資と10万ドルの転換社債の提供、(2) 150カ国1万人以上が属する同社ネットワークへのアクセス、(3) デモデー等外部投資家向けPRの機会提供、などを行うことが一般的と言われる。
アクセラレータープログラムでは、テック企業との向き合いが顧客関係にならないため、中立かつ柔軟に技術の実用性を判断できる点が特徴だ。