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2021.04.30 08:00

「日本人女性初」を利用する。ete庄司夏子のしたたかな戦略


そのため、できるだけ好みに対応できるように、来店時の会話を覚えておいたり、SNSの投稿をチェックしたり、日頃から情報収集は欠かさない。秘書と仲良くなって、より細かなアレンジをすることもある。

「会食の用途によってもメニューを変えますね。接待であれば、料理の説明が簡単で、会話の邪魔になりにくいメニューで構成する。家族のディナーなら、好きなものをめいっぱい楽しめるようにするとか」。まさに、ファッションでいうところの“オートクチュール”だ。

それは、無数の引き出しと確固たる技術、経験値があるからできることであり、そこには華やかな見た目とは裏腹に、地道に腕を磨いてきたという自負が宿る。



また、できるだけ心地よい時間や空間を演出したいという思いは、コロナ禍によっていっそう強くなったという。

「クローズドな場所に集まって、仲間で食事をする時間がいかに尊いことかを考えさせられました。『なんとなくご飯でも』なんてなくなってしまった。人も、場所もよく吟味しなければならない。命が関わるから。食事とは、誰と時間を共有するかだという、本質に戻った気がします」

2014年のオープン時からずっとその価値を大切にしてきたétéは、コロナ禍の打撃を受けなかった。売上はむしろ上がったという。また、昨年は、村上 隆やVERDYなどとコラボしたケーキが話題となり、そのブランディングにおいても飛躍の年となった。

ケーキを買い漁って気づいた「遠回り」


高級かつ予約困難なétéは、ある種“憧れのブランド”のような存在となっている。そうなり得た背景には、「確立したアイコンを持つブランドや、着る人を選ぶようなファッションが好き」という庄司のセンスがある。

「シャネルの服やバッグって、パッと見てそれだとわかります。ヴァレンティノの赤いシルクもそう。マンゴーのケーキを創作する際は、“3秒でétéだと分かる”ことを強く意識しました。唯一無二になってしまえば、真似されたところで揺らぐことはないので」


2020年春に村上隆とコラボレーションしたケーキ。限定50個に対して500の応募があった。(c) 小川剛

では、どのようにその独自性を打ち出すか。庄司はケーキの開発にあたり、無数の店を廻り、ショーケース“全部買い”などして、研究を重ねた。そして、あることに気がついた。たくさんのケーキを並べて見た時に、どれがどのお店のものかわからなかったのだ。お店で読んだケーキの説明も、食べる頃には忘れていた。

「簡易な包装も気になりました。宝石みたいにキラキラしたケーキが窮屈そうで、手土産にするにも、形崩れしないかなど気をつかうなと思ったんです。いろんなケーキを楽しみながらも、『これはビジネスとして遠回りだな』と思う自分がいました」

当時、一度離れたレストラン業界に戻ってきた庄司は、「修行したお店に失礼にならないように、成功以外ありえない。一秒でも早く有名になりたい」と、自分を崖っぷちに立たせていた。できるだけ無駄な動きを省こうと考えた結果、タルトのみに絞り、美しいボックスに入れるという一本勝負をしようと決めた。そのボックスは、いまも職人が一つひとつ手作業で作っている。
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文=国府田 淳 写真=小田駿一 リタッチ=上住真司 編集=鈴木奈央

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