シェフが繋ぐ食の未来

元麻布「かんだ」店主 神田裕行氏(写真=升谷玲子)

元麻布「かんだ」といえば、「ミシュランガイド東京」刊行以来、14年連続で三ツ星の栄誉に輝く、押しも押されもせぬ日本を代表する割烹である。店主・神田裕行さんの洒脱な人柄も大きな魅力のひとつ。それゆえ、彼が食の未来を憂え、真摯な活動に取り組んでいることを知る人は多くはないだろう。

神田さんは2009年、環境に配慮した生産者を支援するNPO法人「Fuudo」を立ち上げ、現在もその理事を務めている。なぜ、そうしたNPOを設立したのか、その経緯を尋ねた。

食の未来は「土の中」にある


「実は、そうした社会的な活動に関わったのは結構早かったんですね。お客様でいらしていた音楽プロデューサーの小林武史さんに、ミスチルの櫻井和寿さんらと立ち上げた『APバンク』の活動に誘われたんです」

APバンクとはArtisit Power Bankの略で、2003年に設立された持続可能な社会を創るためのさまざまな活動を行う組織のことだ。その中で、食のサステナビリティを考えてほしいと請われた神田さんは、多くの文化人を前にプレゼンした。

「今でこそ人間は海洋生物や肉を食べているが、そもそもは、土の中から芽を出し、太陽の光を浴び、雨がふって育った植物やその実を食して生きてきました。そのサイクルを持続させるには、何より、たくさんの微生物を含んだ健康な土が必要なのです」と。

これが多くの賛同を得て、APバンク 食部門の理事を務めることになった。2005年のことである。

「そのときに一番に掲げたのは、農薬からの脱却です。知らない人も多いけれど、実は日本は世界一の農薬大国。当時はフランスの3倍、アメリカの5倍の農薬が使われていました。高温多湿で害虫にやられやすいのと、農薬は雨で落ちてしまうから大丈夫、という考えがあるからなんです。ただ、落ちた農薬はどこへいくかといえば、そう、土の中なんです。だから、土づくりから取り組まなければならないのです」

2009年になると、国産農林水産物の消費拡大を目指す取り組み「フードアクションニッポン」から、星付きのシェフが農業を応援するというストーリーで広告を展開したいという依頼があった。

そこで、神田さんは「こうしたものは一人で出ると独善的だし、売名行為ともとられかねない。何人か仲の良い料理人たちを誘って一緒に出たい」と提案。

都内の星付きシェフである「リューズ」飯塚隆太さん、「カンテサンス」岸田周三さん、「海味」故・長野充靖さん、「青空」高橋青空さん、「神楽坂いしかわ」石川秀樹さん、「濱田家」の女将に声をかけ、そして、せっかくなら、日本の農業の根幹をなす、米をテーマに取り組んでみたいとアイデアを出した。

文=小松宏子

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