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2021.02.06 17:00

14年連続ミシュラン三つ星、「かんだ」店主が土の中に見る未来


実はその頃、神田さんは、日本一の米を求めて、足繫く新潟に通っていた。同県に本社を構える雑誌『自由人』と出会い、共同でいくつもの田んぼを見て回っていたのだ。その中で出会ったのが、現在も店で使用している南魚沼郡(旧塩沢地域)にある鈴木 清さんのお米だった。


写真=田口昭充(自遊人)

「鈴木さんの田んぼを訪れたときに、何より印象的だったのが、そこだけ蛍が飛んでいたこと。ホタルの幼虫は、最も農薬に弱いのに。タニシもいるそうです。土もふかふかで、ほかの田んぼと全く違うのに驚きました。その後、米10種ほどをブラインドで食べ比べたのですが、鈴木さんのお米がダントツの1位でした。いかに農薬に頼らない土づくりが重要であるか、思い知らされました」

風土が「food」を創る


そうは言いながら、実際に田んぼに入ったこともない。農業を経験したことがないとなると、実感を持って、モノを言うことができない。そこで、フードアクションニッポンの活動の一環として、農業体験も含めて、自分らの手で田植えに行ってみようということになった。

「最初は長靴をはいて泥の中に入りました。でも、それだとあまり進まないんです。で、長靴脱いで素足になって入ると、なんとも気持ちがいい。すっかり楽しくなってしまって。この苗が数カ月後には稲穂をつけ、茶碗一杯のご飯になるのかと思うと感慨深いものがありました。そのとき痛感したんです、食の未来は土の中にあるんだなって」

ところが翌年、民主党に政権交代、フードアクションニッポンも解散を余儀なくされた。「我々も解散か?」と思える事態だったが、それはもったいない。塩沢地域とご縁をいただき、せっかく始めた活動をゼロに戻すという選択肢は、神田さんの中にはなかった。オリジナルメンバーに声をかけ、活動を続けるべく、「風土がfoodを創る」という意味で「Fuudo」というNPO法人を立ち上げた。

以来、欠かさず鈴木さんの田んぼに田植えに行っている。神田さんたちが携わっている田んぼは、以前は平地にあったが、温暖化にともなって、100mほど上がった小高い丘の上に移動した。今では、総勢100人ほどの料理人が田植えを手伝う。農家にとっても一大戦力だ。

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写真=田口昭充(自遊人)

でも、なぜ田植えに人手が必要なのか? 耕運機があるではないか? と思う向きもあるだろう。実は、耕運機で植えられる稲の苗は長さ8cmまでと機械の構造上、決まっている。ところがその長さの苗ではまだ弱く、農薬を撒かないと害虫にやられてしまう。しかし、10cmにまで育った苗を手で植えれば、その後の農薬が圧倒的に少なくてすむというのだ。

わかってはいても、人手がなければとてもできることではない。だからこそ、“チームかんだ”の人海戦術がいきるのだ。
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文=小松宏子

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