この新たなタイプのタイムループ作品を送り出したのは、監督のマックス・バーバコウと脚本を担当したアンディ・シアラだ。2人はデイヴィット・リンチ監督やテレンス・マリック監督を輩出したアメリカン・フィルム・インスティチュート(AFI)でともに学び、在学中にこの「パーム・スプリングス」の製作を思い立ったという。
ただし、当初は、タイムループものとしてではなく、自殺するためにパームスプリングスにたどり着いた30代の男が、人生の意味を再発見していく物語だったそうだ。彼らが頭に描いていたのは、ニコラス・ケイジにアカデミー賞主演男優賞をもたらした「リービング・ラスベガス」(1995年)だった。
とはいえ、無名のこのコンビの作品に興味を示す人間は少なく、そこで取り入れたのが、タイムループのアイデアだったという。この新たな脚本を読んだ主演のアンディ・サムバーグが、自らプロデューサーを買って出て、映画製作が動き出した。
サムバーグは、アメリカで人気を博する3人組のコメディグループ「ザ・ロンリー・アイランド」の中心メンバーで、自らもコメディアンや俳優としても活躍している。1万回以上タイムループを繰り返しながら、飄々とした主人公を演じるサムバーグの秀逸な演技も「パーム・スプリングス」の見どころだ。
(c)2020 PS FILM PRODUCTION,LLC ALL RIGHTS RESERVED.
また、彼が参加するザ・ロンリー・アイランドは、ヒップホップのアルパムもリリースしており、音楽的にも高い評価を得ている。「パーム・スプリングス」には、他の2人のメンバーもプロデューサーとして参加しており、作品のブラッシュアップに貢献したという。
「パーム・スプリングス」は、昨年1月に開催されたインディペンデント映画の登竜門であるサンダンス映画祭でプレミア上映され、過去この映画祭では最高の1750万ドル69セントで配給権が取り引きされたことで、一躍、注目を集めることとなった。
昨年は、アメリカでも、コロナ禍により映画館のほとんどが休業に追い込まれた。「パーム・スプリングス」は一部のドライブインシアターで公開されたにとどまったが、代わって、アメリカのHuluで配信され、最初3日間のオープニング視聴記録を打ち立てた(最初のひと月では加入者の8.1%が視聴)。
4月9日より全国ロードショー (c)2020 PS FILM PRODUCTION,LLC ALL RIGHTS RESERVED.
日本では、無事、劇場公開されることとなったが、美しい砂漠のリゾート地を舞台にした物語だけに、旅行も制限されるコロナ禍の憂鬱を快く吹き飛ばすには格好の作品となっている。そして、誰もが少しばかりならタイムループを経験してみたくなる、観ていてかなり楽しめる作品でもある。もっともこのコロナ禍の1年だけは、やり直したくはないが。
連載:シネマ未来鏡
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