ナイルズもまた洞窟のなかに消えたため、サラも追うが、不思議な光に包まれ、気がつくと今朝と同じベッドの上で目覚めていた。実は、この洞窟がタイムループへと導く特別な場所で、一度これにハマると、眠りに落ちるか、死を迎えるかで、同じ11月9日の朝に戻ってしまうのだ。
前述のようにナイルズは、もうこのタイムループを40年間も繰り返していたが、新たにサラがこの循環に加わったことで、世界が一変。むしろ、この状況を楽しもうとする。一方、サラは、この悪夢のループに戸惑い、なんとか断ち切ろうと、いろいろ試みるが、どうしてもまた11月9日の朝に戻ってしまう。
(c)2020 PS FILM PRODUCTION,LLC ALL RIGHTS RESERVED.
やがて2人は、何度もタイムループ繰り返しているうち、プールで泳いだり、砂漠でキャンプをしたりして、この状況を楽しむようになり、互いに愛情も芽生えてくるのだが。果たして、2人の永遠の11月9日は、そのままずっと続くのか────。
主演A・サムバーグの飄々とした演技
タイムループを描いた映画は、過去にも多数ある。たとえば、「恋はデジャ・ブ」(1993年)は、アメリカ国立フィルム登録簿にも永久登録されているビル・マーレイ主演の名作で、タイムループによって、田舎町の退屈な祭りの1日を何度も繰り返しているうち、主人公が傲慢な自分の性格をあらため、恋を成就させていくという物語だ。
最近では、トム・クルーズ主演の「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(2014年)も、エイリアンと戦う兵士がタイムループに巻き込まれ、何度も死んでは過去に戻るという経験を積むうちに、敵に勝つ方法を見つけ出すという物語だ。日本の同名ライトノベル(桜坂洋著)が原作だったので、記憶に残っている人も多いだろう。
どちらの作品もタイムループを繰り返すうちに、「自己変革」を遂げるというところがミソだ。つまり、何度も同じ時間を過ごしているうちに、新たな感情やスキルを修得して、何かを成し遂げようとする。いわば自己実現の物語と言ってもよいかもしれない。
しかし、「パーム・スプリングス」の場合のタイムループは、この2作品のそれとは少々趣が異なる。主人公は最初から時間の循環のなかに閉じ込められており、そこに新しい同行者が現れるという設定だ。そして2人が望むのは、自己変革でも自己実現でもない。
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見方によっては、2人はこの状況を楽しんでいるようにも思える。それがまた、享楽的な砂漠のリゾートを舞台に繰り広げられる。ある意味、この振り切った設定が、作品のなかに観客を引き込んでゆく。
実は、実際のロケ地は、パームスプリングスではないらしいのだが、世俗から遠く離れた砂漠のドリーミングな場所として、色彩鮮やかに美しく描かれる。特に2人が砂漠でキャンプをしながら、太古の恐竜たちの幻影を見るシーンは、この作品の見どころの1つと言ってもよいかもしれない。