私のニューヨークの知人は、すでに満席となっているヨーロッパ便に乗ってクロアチアへ向かった。新型コロナウイルスの検査も含めて厳しい入国審査を受け、コロナ禍の先を見越して、今夏からの新規事業起ち上げの準備に入った。
クロアチアは、国の南端に、世界遺産の城塞都市ドゥブロヴニクがある。15〜16世紀にかけて、ベネチアなどとも並ぶ海洋交易都市として隆盛を築き、「アドリア海の真珠」と謳われてきた場所だ。
ドゥブロヴニクの旧市街は、宮崎駿監督のアニメ「魔女の宅急便」の街や、「紅の豚」の舞台のモデルとされる場所だ。ドラマシリーズの「ゲーム・オブ・スローンズ」でも、中世の都市として石畳の残る街並みが撮影に使われた。
歴史的な街並みを残すドゥブロヴニクの旧市街(Getty Images)
古代から自由都市国家として専守防衛をしながら生き延びてきた、わずか500㎡ほどの旧市街。そのロヴリイェナッツ要塞の入り口には、ラテン語で「NON BENE PRO TOTO LIBERTAS VENDITUR AURO(世界中のお金を持ってしても自由は売らない)」と書かれている。その自由の価値を尊重した精神は、1418年に世界で初めて奴隷制を廃止した都市国家としての歴史に刻まれている。
また旧市街は、1300年頃から薬局、養老院、孤児院、伝染病の病院、上下水道も完備するところまで築き上げた小都市国家であり、単なる観光地としてではなく、都市の機能として現代に通ずるところが多々あるモデル都市でもある。
知人から送られてきた写真を見ると、中世都市の雰囲気を保ったザグレブの中心部イェラチッチ広場は、すでにマスクなしで、屋内外のレストランバーもすごい人混みで、コロナ禍の前と変わらないほどに賑わっているようだ。
こちらニューヨークでも、1年間抑圧されていたものが解き放たれるように、アフターコロナに向かって動き出している脈動を感じる春である。ドゥブロヴニク精神になぞらえれば、「動ける自由は、お金では買えない」ことも、身に沁みて学ばざるを得なかった1年であった。
まだまだイタリア、フランスなど変異株によるロックダウンが続いている厳しい状況ではあるが、世界でコロナ禍の終息を祝い、皆で会食、乾杯が再びできる季節が来ることを祈っている。
ワクチン開発には当初2年かかるとも言われていたが、人類は1年以内にここまで漕ぎ着けた。医療関係者、ワクチン開発に携わった人たちの努力の賜物であり、深謝するばかりである。
連載:ポスト・コロナのニューヨークから
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