喪失から立ち直るための大きな犠牲
祭りの夜、同世代の仲間たちと過ごしているジャンのもとにエレナが行くあたりから、彼女の行動は少しずつ境界線をはみ出していく。
店で、音楽に合わせて踊っているジャンの元彼女を挟んで、エレナとジャンの絡み合う繊細な視線は、明らかに恋人同士のものにも見える。失った息子イバンへの思いが、恋愛感情に近いものにまで高められてしまっていることも、エレナの態度を曖昧にしている。
エレナは自分へのジャンの恋心を利用し、年上の友人とも恋人ともつかない態度を取り続けることで、「成長したイバンと一緒にいる」という幻想に浸っていたのだろうか。それとも、それをいつのまにか忘れて恋愛感情が芽生えていたのだろうか。
画面から伝わるこのどちらともつかない二重性が、爽やかな陽光の降り注ぐ夏の海岸での物語に、ミステリアスな趣を与えている。
小さな町で、39歳の中年女性が16歳の少年とことさら親密にしていれば、周囲の目が険しくなるのは当然だ。とうとうジャンの家族はエレナを警戒するようになり、情緒不安定なエレナを心配したヨセバは、エレナのバスクへの引っ越しを早めようと提案する。
「イバンに似ている。でも君の息子じゃない」とのヨセバの言葉に、大きな目を見開いたまま固まってしまうエレナの表情からは、彼女がどれだけ深い喪失感の中を彷徨い、イバンの幻影にすがりつこうとしているか、その闇の深さがうかがわれる。
おそらく長い断絶を経てやっと実現した元夫ラモンとの再会は、それぞれ恋人を得たことを確認して穏やかに終了するはずだった。だがここでもエレナの中の闇が顔を出す。
(c)Manolo Pavon
暴力沙汰に発展するジャンの家族とのトラブル、慌ただしい引っ越し準備。このまま「悪い夢を見たのだ」と諦めて一切を忘れ、ヨセバとともに旅立つのが最善の選択だったはずなのに、エレナはそうしなかった。
ジャンとの最後の秘められた逢瀬でエレナが見せたのは、自分を恋慕する少年に対する最大限の愛であり、同時に「イバンとの別れ」である。それは彼女が喪失から真に立ち直るために、大きな犠牲を払ってでも通過せねばならなかった地点だったのだ。
連載:シネマの女は最後に微笑む
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