息子が消えたフランスの海岸近くに移り住み、観光客相手のレストランの店長として働いているエレナ。ある日、海岸ですれ違った美しい少年にイバンの面影を発見し、彼の家まであとをつける姿は、彼女の中でこの10年、失った息子がいかに強く生き続けているかを感じさせる。
少年は、パリから家族とともに避暑に来ていたジャン(ジュール・ポリエ)、16歳。尾行を知っていたらしい彼は、エレナに関心を示し、店に通ってくるようになる。
内心の動揺を隠しポーカーフェイスで迎えるエレナだが、片言でスペイン語も話せるジャンに気持ちを揺さぶられる。
一方、早熟なジャンは、彫りの深い美貌に憂いをたたえた大人の女性エレナにすっかり一目惚れ。栗色の髪とブルーグレーの瞳が綺麗な、美少年だがまだ幼さも残るジャンの、小生意気な口の利き方が微笑ましい。
息子を亡くし、離婚して絶望の淵にいたエレナを支えてきたのは、スペインから時々訪ねてくる恋人ヨセバ。辛抱強く温厚で安定した人柄が、その暖かな風貌から滲み出ている。
バスク地方にあるヨセバの田舎風の家が素敵だ。緑に囲まれた菜園、友人たちと賑やかに囲むテーブル。だがその中に混じっても、いまやエレナの頭の中を独占しているのはジャン(=イバン)のことである。
ヨセバの家から早々に辞して、海辺にジャンのサッカーの試合を見に行ったエレナ。彼女はそこで彼の家族に紹介され、食事に誘われる。自分の家族に背を向け「典型的なブルジョワだ」と皮肉っぽくエレナにささやくジャン。彼としては、大人ぶってエレナと同じ目線に立とうと精一杯の背伸びをしている。
(c)Manolo Pavon
夜も店にやってきたジャンと、たまたま来ていたヨセバが出会うシーンもある。ヨセバはジャンがイバンに似ていることに気づいただろうが、ジャンの家族はこの時点では、人懐こい息子に地元の女性が親切にしてくれている、程度にしか思っていない。
こうした中で、エレナがジャンにイバンの面影を重ねて煩悶したり、大胆に相手の中に踏み込んでいったりするようなシーンは描かれない。ジャンを目で追いながらも、彼女は一貫して、大人の抑制された態度を取り続ける。
当初は、もしかしたら息子イバンなのでは?との思いが頭を掠めたかもしれない。が、すぐにそんなはずはないと打ち消しただろう。それでも、生きていたらきっとジャンそっくりだったであろうイバンの面影を求めて、彼女は次第にジャンの来訪を待つようになる。
美しい林を抜けて誰もいない海岸にジャンがエレナを誘うシーンには、秘密めいた妖しい雰囲気が漂う。母親ほど年齢の離れた女に対等に接するジャンと、息子と一緒にいる気分のエレナ。
しかし、家でランチを振る舞い、うたたねしているジャンを間近でじっと見つめるエレナの表情は、息子を求めているのかそうでないのか、危うさも感じさせる。