ビジネス

2021.03.09 17:00

石巻から日本の水産業を変える。異業種とコラボする漁師ら10年の軌跡

奮闘するフィッシャーマンら


立ち上げ当初から、フィッシャーマン・ジャパンは色々なクリエイターや著名人から次々と協力の手を差し伸べられ、目を見開くような、かっこよくて革新的なプロジェクトを発信してロケットスタートを切った。「ITの力を使って水産業に切り込めないか」と、ヤフー SR推進統括本部の長谷川琢也氏も加わり、ITならではの掛け合わせや異業種とのコラボ施策も次々と生まれた。
advertisement


 
今回話を聞いた安達も他業種から飛び込んできた一人だ。「デザイナーである自分は石巻のために何ができるのか」そんな思いを胸に2011年にボランティアとして石巻に入り、2015年にフィッシャーマン・ジャパンのアートディレクターとしてジョインした。

リクルートの社食では生産者と消費者の交流の場を作り、Tカードのビッグデータを活用して水産加工物の商品開発を行った。アパレルの人気ブランド、アーバンリサーチと組んで、海で働く人のためのスタイリッシュなウエアを開発するなど、漁師の既存イメージをどんどん刷新していった。


(c)フィッシャーマン・ジャパン
advertisement

アーバンリサーチとの付き合いは今年で早6年。これまで接点がなかったファッション業界のクリエイターたちからも熱い視線が集まり、年々メンバーも増え、多種多様な商品やプロジェクトを展開し続けている。なぜ他業種とのコラボがここまでうまくいくのか。それは安達のような異色の存在が中にいることが大きいという。

「世の中にカッコイイものを作れる人はたくさんいる。そういう人たちと一緒にやろうってなった時に、彼らが1番力を発揮できるようにするためにはどうしたら良いかを考えました。私が彼らと水産業をつなぐハブになって、現場との調整とかはこっちで巻き取る。そうやってもっとオープンにいろんな人を呼び込んで、水産業に関わってくれる人を増やせたらいいなと思ってます」

浜から漁師がいなくなる現実


漁師たちの収入は総じて少ない。日本はもともと水産大国だったが、1996年に排他的経済水域が定められたことをきっかけに、日本の水産業は衰退の一途を辿り、今では魚の原価率も最下位を争っている。

一方、世界では魚食が進んでおり、水産業は伸び代のある産業として注目されている。中国や東南アジア諸国も次々と参入し、政府や民間の援助を受けながら漁獲量も漁獲高も著しく伸びている。しかし、そんな世界とは逆行して、日本では肉を食べる食習慣が広がり、2010年以降は肉の摂取量が魚の摂取量を超えるようになってきた。



Source:農林水産省「食料受給表」

以前ほど魚は売れなくなり、その単価も下がる一方で、漁師たちの生活は益々困窮していく。仕事に誇りが持てず、子どもの将来を案じて、「お前は勉強して浜から出て、ちゃんとした仕事に就け」と言う漁師も少なくない。漁師を継ぐ若手が減り、現役の漁師は超高齢化が進み、このままでは浜から漁師がいなくなってしまう。

漁師が儲からないのは、超縦割り社会で閉鎖的という水産業の構造的な問題もある。魚を獲ってから消費者の元に届くまでには複数の工程があるが、小売店が強いために魚の値段が販売価格から逆算して決定され、浜の漁師たちの売値が買い叩かれてしまうのだ。


 Photo by Funny!!平井慶祐

次ページ > 「フィッシャーマン」の由来

文=水嶋奈津子

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事