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2021.03.09 17:00

石巻から日本の水産業を変える。異業種とコラボする漁師ら10年の軌跡


小売には出さず、その味とクオリティを理解してくれる料理人に限定して卸すことで、より多くの人の口にその美味しさを届けることにこだわる。料理人がいつどんな料理にその鰆を使うのかを漁師自らがヒアリングし、血を抜く量を微調整するなど、処理までカスタマイズすることで最適な一本を見極め、最高の一皿になるまでを見届ける。

そんな匠衆たちが手塩をかけた珠玉の鰆には市場価格の何倍もの価値がつき、少ない漁獲量で漁獲高を上げることに成功した。今では有名な料亭や老舗の鮨屋の間で評判が広まり、全国から引き合いがあるほどの人気ぶりだ。

若者を通して未来を見つめ始める漁師たち


海洋資源を守ることに関心を持ち、積極的に行動する人たちの共通点は「未来志向であること」だと安達は語る。


Photo by Funny!!平井慶祐

「若者や子どもたちと関わっていると、彼らにできるだけ多くの選択肢を残したいという想いが芽生えます。そしたら必然的に100年先200年先の海に目が向くんですよね。若い人たちが浜に増えて町が元気になって、次世代の彼らのために『海が豊かであり続けるためにできることをやろう』という意識も強くなる。そういうプラスの循環が少しずつでき始めているのを実感してます」

これまで自分の子どもに仕事を継がせようと思えなかった漁師たちは、自分たちの代だけ食べられればいいと、ある意味諦めてしまえる状況でもあった。しかし、若者や子どもたちの未来に思いを馳せ始めると、「そう遠くない未来に海から魚がいなくなる」という恐ろしい事実から目を逸せなくなる。

それは水産業に関わる彼らだけの問題ではない。私たちも今のように安価で美味しい魚や海の恵みを享受できなくなることを意味する。彼らのサステナビリティを守ることは、浜の外にいる私たちみんなの暮らしの中に存在する、海の恩恵を守ることでもあるのだ。


 Photo by Funny!!平井慶祐

皮肉にも海が津波で綺麗な姿を取り戻したように、石巻はより豊かで元気な町に生まれ変わっている。浜には漁や海に関わる仕事に情熱を燃やす若者が増え、ITやデザインなど様々なナレッジやスキルを持った人たちが県境を超えて集まり、より良い水産業と海との付き合い方を目指して日々挑戦し続けている。

この石巻から巻き起こったウェーブを絶やさず、より大きなうねりを加えて日本中に広げていくことができれば、豊かな海に囲まれた日本をきっと取り戻せる。そんな未来を手繰り寄せてくれるフィッシャーマンたちのビッグウェーブに必要なのは、石巻でもない水産業でもない場所にいる、あなたの力かもしれない。

後編はこちら→「なぜ漁師が稼げないのか」に本気で向き合う。異色のクリエイターが石巻から発信するデザイン

連載:「声から見えてくるノンフィクション」
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文=水嶋奈津子

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