求める商品が広大な売り場のどこにあるのか、簡単に見つけられるアプリを開発。ECで注文しておくと店舗で取り置きできる店内ロッカーも設置した。なんとロボットが売り場まで案内してくれる店舗もある。小売業でありながら自社で商品開発を行い、毎年のようにグッドデザイン賞を受賞。工事関連業者や年配者が多かった店舗に、いまや若い女性が次々に訪れる─。ホームセンターのあり方を変え、DIYの概念をも変えてしまったといわれるのが、売上高4410億円を誇るホームセンター業界のトップ企業、カインズだ。
同社は群馬県発祥の流通企業ベイシアからスピンアウトして、1989年に生まれた。同じグループには大型スーパーのベイシアや業績絶好調で話題の作業服大手ワークマン、コンビニのセーブオンなどが名前を連ねる。チェーン売上高は、実に1兆円を超える。グループ創業者の長男であり、2002年からカインズ社長を務め、業界を驚かせる新しい取り組みを次々に推し進めて会社の成長を牽引してきたのが、現在は会長の土屋裕雅だ。
「同じことをやっていたら、同じ成長しかできないですよね。どうせなら、面白い仕事がしたいし、やったね、とみんなで思いたい。そのほうが、楽しくありません?(笑)」
社長に就任した当時、カインズは大型のディスカウント型ホームセンターだった。しかし業界で合従連衡が始まる。大きさや安さはカインズならではの価値にならなくなる、といち早く気づいた。
「差別化にならないわけです。ちょうどアパレルのSPA企業が注目されていて、我々の世界でもトレンドが起こせるのではないかと思いました」
業界を最初に驚かせたのは、商品開発型、SPA型のホームセンターにかじを切ったことだ。ここから「ごはんがつきにくい茶碗」や「立つほうき」など、カインズにしかない大ヒット商品が次々に生まれる。ただし、優れた商品開発力を発揮するようになるまでは、試行錯誤の連続だったという。
「発想の転換のため、思い切ったこともしました。忘れられないのは、中国の展示会に、会社から商品開発のスタッフ全員で向かったことです」
総勢30人以上。どうやって商品を開発すればいいのか、皆目わからなかった。そこで実際に製造現場を持つメーカーの商品を見て、それをヒントに考えてみることにしたのだ。
「たくさんの商品を見たあと、皆で思いついたことやアイデアを発表し合いました。その場で、それはいい、それは使えない、とディスカッションしていく。大事なことは、観点を共有することなんです。そうすれば、独りよがりのアイデアを防げる。そのためには、現物を見ながらみんなで議論することが大事だと思ったんです」