「映画では、大金を目の前にして戸惑うことなく自身の悪事を正当化し、次第に獣になっていく登場人物たちを描きました。しかし、これは日常生活でも起こりうる話で、そんな獣たちの絶望を描くことに尽力しました」
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そのヨンフン監督が自ら執筆した脚本が素晴らしい。原作小説の時系列の並べ替えを巧みに生かしながら、新たなエピソードや人物設定なども加えている。
実は、最後に大金を手にするのは意外な人物で、これは原作とは異なる結末なのだが、そこまでに至る全編に散りばめられた伏線の回収が半端ではない。ブラックな内容の割には、観終わった後、ストンと胸に落ちるような爽快さも残る作品だ。筆者はこれを「伏線完全回収作品」と呼びたいくらいだ。
もちろん、原作者も絶賛するように映画としての完成度も高く、これだけのクオリティを長編第1作から発揮するというのは、並々ならぬ才能と言っても良い。今後も楽しみな監督の1人で、あらためて韓国映画界の層の厚さには驚くばかりだ。原作者の曽根氏も、ヨンフン監督の手腕については次のように語っている。
「原作には小説ならではの仕掛けがあります。脚本も手がけられたキム・ヨンフン監督は、その問題を巧みな手法で解決し、原作の構成を生かしつつ、素晴らしい娯楽作品に仕立てあげた。お見事です。恐れ入りました」
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このように、映画「藁にもすがる獣たち」は、原作者をも手放しで驚嘆させる出来映えだが、この原作をヨンフン監督が「発掘」する前に、日本で映画化されていたら、どんな作品になっていただろう。期待は持ちつつも、老婆心ながら危惧するのである。
ちなみに、ヨンフン監督が惹かれたという原作小説のタイトルだが、当初は「あわよくば」というものだったという。単行本として刊行する際にダメ出しがあり、曽根氏が考えた30以上の代替案のなかから「わけありな獣」と「藁にもすがる」が選ばれ、その組み合わせで決定したものだったという。ということで、もし「あわよくば」というタイトルだったら、映画化は実現しなかったことになる。
連載:シネマ未来鏡
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映画「藁にもすがる獣たち」は2月19日(金)より公開中。