もちろん、過去にも日本での映画化を経ずに、韓国で原作として映画製作された例はある。世界的に評価の高いパク・チャヌク監督の「オールド・ボーイ」(2003年)だ。こちらは小説ではなく、日本のコミック「ルーズ戦記 オールドボーイ」(原作・土屋ガロン、作画・嶺岸信明)が原作だったが、映画はチャヌク監督の代表作となり、その後、2013年にアメリカでもスパイク・リー監督の手でリメイクされている。
最近では、村上春樹氏の短編小説「納屋を焼く」が、これも国際的に評価の高い韓国のイ・チャンドン監督によって、「バーニング 劇場版」(2018年)の原作として直接映画化されている。もっともこれは、すでに村上氏が世界的に有名であることから、前述の2作品とは少しケースは異なるかもしれない。
実は、筆者も編集者時代に、担当作家の小説が韓国で映画化された経験がある。司城志朗氏の「ゲノムハザード」だ。この作品を読んで映画化を熱望してきたキム・ソンス監督が、5年ほどの歳月をかけて「ゲノムハザード ある天才科学者の5日間」(西島秀俊主演、2013年)として完成させた。もちろん、この作品も日本では映画化されていなかったので、今回の「藁にもすがる獣たち」と同様の成り立ちだ。
「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督、2019年)のアカデミー賞作品賞受賞で、韓国の映画界は世界的にも高い評価を得ているが、彼らが持つ優秀な原作に対する嗅覚はことのほか鋭い。
ジュノ監督自身も、フランスのグラフィックノベル「Le Transperceneige」を原作として、初めてのハリウッド作品「スノーピアサー」(2013年)を撮っている(その後、アメリカでドラマシリーズも製作された)。どこかの国のように、原作の出版部数にこだわることもなく、とにかく監督が気に入ったものを映画化するという姿勢には顕著なものがあり、その原作の発掘力には驚くばかりだ。
最終的に大金を手にするのは誰か
前置きが長くなったが、映画「藁にもすがる獣たち」は、原作者の曽根氏自身が、「この作品を手本にして原作を書き直したい」と考えるほど完成度の高い作品となっている。
原作小説では、章ごとの時間の序列に操作を加え、それぞれの時間軸を微妙にずらしながら、終盤にドラマチックな展開を用意している。かたや映画では、エピソードを6つに分けて、それぞれに「鴨」や「ラッキーストライク」などの印象的なタイトルをつけ、原作小説が持つ効果を損なうことなく、最後まで興味を繋ぐ見事なストーリーテリングを披露している。