そうした認知症や全般的な死亡率に、睡眠不足が関係している可能性がある。この知見は、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院とボストン・カレッジを拠点とする研究チームにより、2021年2月発行の「エイジング」誌で発表された。
研究チームは今回の研究にあたり、国民健康加齢傾向調査(NHATS)のデータを分析した。この調査は、メディケア(高齢者および障害者向け公的医療保険制度)の加入資格を持つ米国の65歳以上の人を対象に実施されているものだ。
この長期的調査には、睡眠時間(一晩あたりの時間)、入眠潜時(毎晩、眠りに落ちるまでに要する平均時間)、日中に昼寝が必要かどうかなどの項目が含まれている。また、日中に注意力を保つことが難しいかどうかや、認知症の発症、5年の調査期間における全死因死亡率(原因を問わない死亡率)も調査された。
研究チームは、調査対象群から成人2810人(平均年齢76歳)のデータを抽出し、睡眠障害、認知症、全死因死亡の関係を調べた。その結果、一晩の睡眠時間を5時間以下と報告した人は、7~8時間と報告した人と比べて、認知症発症のリスクが2倍になることがわかった。
毎晩の入眠までに30分以上かかる人は、認知症発症のリスクが45%高かった。睡眠不足を報告した人や、日中に昼寝が必要な人、日中に注意力を保つのが難しいと回答した人でも、5年の調査期間における全死因死亡率が高かった。
一方、先行する複数の研究では、睡眠の質の高さや睡眠時間の長さが、認知症発症率および死亡率の低下と結びついていることが示されている。「米国老年医学会ジャーナル(Journal of the American Geriatrics Society)」で発表された2018年の研究では、60歳以上の日本人1517人を対象に、10年にわたる追跡調査を実施した。その結果、一晩の睡眠時間が5~6.9時間の人では、調査期間における認知症発症率と死亡率が低いことがわかった。