ビジネス

2021.02.09 08:00

50万部超えの『繊細さん本』、ヒットが必然だったワケ

『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』(2018年7月、武田友紀著、飛鳥新社刊)


企画者は、「非・繊細さん」だった


そんな矢島氏だが、自身はまったくHSPではないという。

「元々心理学には興味があったのですが、私自身はまったく繊細さんではなくて(笑)。繊細さん診断テスト(同書のP.28。全部で23問。そのうち12個以上当てはまればHSPと言われている)があるのですが、やってみたところ、一つしか当てはまりませんでした。

HSPではないのですが、私には別の悩みがあって。片付けが苦手で、鞄の中がぐちゃぐちゃだったりして、『なんでだろう』と思っていたところ、多動気味で片付けが苦手な性質をもつ人がいるということを知り、『自分が悪いわけじゃないんだ』と思えたことで気が楽になった、という経験があって。なのでHSPについても、その存在を知ることで『自分がおかしいわけじゃないんだ』と気づいて楽になれる人がいるのではないか、と思いました」

null
飛鳥新社取締役編集長、『「繊細さん」の本』編集担当 矢島和郎氏

魔法のネーミング「繊細さん」にヒットの秘訣あり


こうして非・繊細さんによる繊細さんの本の企画が誕生した。

では実際に、どういった人が同書を購入しているのだろうか。

「この本で初めてHSPを知った、という人が非常に多いです」と矢島氏は話す。その理由について、「『繊細さん』というネーミングが大きかったのでは」と言う。

「繊細さん」という言葉は、元々武田氏が自身のHPで使用していた。矢島氏は初めて目にしたときピンと来るものがあり、同書でもこの言葉をそのまま使用した。「HSP」だと少々硬い印象だが、「繊細さん」という表現を使うことで柔らかい印象になり、より幅広い人に届けることができた、と矢島氏は話す。

一番多い「会社での悩み」にフォーカス


矢島氏には前提として、「初めてHSPを知る人のための本」にしたいという思いがあった。そのため同書ではまず、HSPについて非常に丁寧に説明されている。

その上で、この本では「How to」を大きな柱にした。「How to」、すなわち「どうしたらいいのか」が明らかにされていることこそが、「医師や研究者ではなく、カウンセラーが書くHSPの本の意味なんです」と矢島氏は言う。

この点に関しては、武田氏のメーカー勤務、会社員経験が大いに活かされているという。自身もHSPとして組織で働いた経験から、「HSPの人が会社で働いているときに、どんな状況に陥ると大変か」ということを、武田氏は身をもって理解しているのだ。

また、武田氏が同書を書く前から600人以上をカウンセリングしたなかで、一番多かったのが「仕事関係の相談」だったという。そのため、同書でも会社での悩みにフォーカスした。
次ページ > 「生きづらい」という表現を使わなかったワケ

取材・文=長谷川寧々 編集=石井節子

ForbesBrandVoice

人気記事