世界とズレていく日本のコロナ対策 PCR抑制が引き金か?

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世界のやり方は違う。表4は、第1波のある時点でのアメリカのマサチューセッツ州における主要病院の新型コロナウイルス感染者の受け入れ数を示している。トップのマサチューセッツ総合病院は278人で、このうち121人は集中治療室での治療が必要な重症患者だった。受け入れた患者数は、現在の都内の重症患者数の総数よりも多い。

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表4 出典:The Boston Globe
*Hospital size based on typical bed count:Small(less than 100 beds):Small-medium(100-199 beds)
:Medium(200-299 beds):Median-Large(300-399 beds):Large(500 or more beds)
**Excludes admitted patients with coronavirus symptons, but test results are not yet back.
The number can be significant-often as much as one-quarter to equal the number of confirmed cases.
****Baystate Health provided numbers to the Globe on 4/12/20, not through MHA. The data was collected on 4/11/20.

マサチューセッツ総合病院は、ハーバード大学の関連施設で、世界でもっとも有名な病院の1つだ。普段は先進医療を担っている。病床数は約1000床で、日本の大病院と同規模だが、コロナ禍とともに、重症患者を一手に引き受けたことになる。多くの専門医や看護師を抱えるため、多数の施設に分散して受け入れるより効率的だ。

このような戦略をとったのはアメリカだけではない。中国は第1波で武漢にコロナ専用病院を立ち上げたし、欧州各国も重症患者を集中的に治療した。日本のようなやり方をした国は世界でも珍しい。

無症状感染者対策にかかっている


日本は世界から学ぼうとしていない。図1は、米国国立医学図書館データベース(PUBMED)に収載された各国の人口10万人あたりのCOVID-19(新型コロナウイルス)論文数だ。主要国で日本は最低レベルだ。

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図1 出典:PubMed(米国国立医学図書館)収納、国際連合の人口推計(2020年) 医療ガバナンス研究所 山下えりか

日本の医師や研究者のレベルが低いからではない。本稿では詳述しないが、データの公開や共有体制など、システムに問題があるからだ。知人の大学教授は「厚労省から研究費をもらっているので、コロナについて彼らの意向に反する論文は書きにくい」など、さまざまな制約がある。

新型コロナウイルスは未知のウイルスだ。世界各国が試行錯誤を繰り返し、その成果を臨床研究として発表している。そして、『ネイチャー』、『サイエンス』、『ランセット』、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』などの総合科学誌や臨床医学誌を舞台に、世界的なコンセンサスが形成される。論文を書かず、世界での議論に参加しなければ、議論は容易に独走する。その象徴がPCR論争に現れている。
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文=上 昌広

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