厚労省はPCR検査を抑制してきたと報じられている。その理由として、PCR検査は偽陽性が0.1~1%程度に生じるため、人権侵害、医療崩壊の懸念があると説明してきた。ところが、世界各国でPCR検査は多用されているが、そのために医療が崩壊した国や地域はない。いったいどっちの言い分が正しいのだろう。
もし、厚労省が主張するように、PCR検査を多用することが医療を崩壊させるなら、由々しき事態だ。世界で共有すべき知見であり、日本の経験を論文として発表すべきだが、これまで、そのような発表はない。PCR論争の特徴は、国内と世界での議論が全く違うことだ。
私は、PCR抑制政策を早期に転換しなかったことが、日本のコロナ禍を拡大させたと考えている。それは、新型コロナウイルスの特徴は無症状感染者が多く、彼らが周囲に感染させるからだ。コロナ禍への対策は無症状感染者対策にかかっていると言ってもいい。
そのためには、徹底的にPCR検査をするしかない。12月2日にPCR検査体制の強化がもっとも有効なコロナ禍への対策であるという論文を、医療政策のトップジャーナルである『ヘルス・アフェアー』誌が掲載し、話題となった。この問題について、既に結論は出ているのだ。
しかしながら、この研究成果について、日本のメディアで報じられることはなく、政府は検査抑制方針を見直さなかった。あいかわらず、発熱や呼吸器症状などを呈した発症者と、その濃厚接触者を中心としたクラスター対策を続けている。
日本のコロナ禍への対策は、世界で例をみない独特なものだ。これまでを振り返ると成功したとは言いがたい。ところが、そのような論調は皆無だ。
これでは緊急事態宣言で、感染が抑制されたとしても、また再燃する可能性もある。しわ寄せを食うのは国民だ。営業時間の短縮を余儀なくされる飲食店など、その典型だろう。日本のコロナ禍への対策は、いまこそ広く世界の経験から学び、見直さねばならない時にきている。
連載:現場からの医療改革
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