ジェネラル・マネージャーは現場の最高責任者であり、球団オーナーに対し、チームの成績について責任を負う。監督やコーチ陣を採用して、体制づくりをするのも仕事だ。
また、選手との年棒交渉にもあたり、球団と選手のエージェントとの間で「数字」をまとめていく役割も持つ。つまりチームの現場の全責任を担う重要な職務なのだ。
30年間、野球界に身を置く
これまで圧倒的な男性社会であったメジャーリーグで、このジェネラル・マネージャーの座に上り詰めたのが、マイアミ・マーリンズのキム・アングだ。彼女は当年52歳のアジア系アメリカ人。シカゴ大学で公共政策を学び、1990年にメジャーリーグのシカゴ・ホワイトソックスでインターンとして働き始めた。
その後、ニューヨーク・ヤンキースやロサンゼルス・ドジャースなどでアシスタント・ジェネラルマネージャーなども務め、上部団体であるメジャーリーグ機構にも身を置いてきた。つまり30年間、ずっとアメリカの野球界で働いてきたのだ。そのうち21年をメジャーリーグのチームで職を得ていたが、その間、3度のワールドシリーズ優勝も経験している。
マリーンズは、2017年からニューヨーク・ヤンキースの伝説のプレイヤー、デレク・ジーターが最高経営責任者(CEO)を務めているチームだが、アングは1998年から2001年の間、ヤンキースで彼と「職場」を共にしている。そのこともあってか、アングがジェネラル・マネージャーとなったのは、けっして話題づくりなどではなく、彼女の豊富な現場経験が、ジーターCEOに認められたからかもしれない。
従来、ジェネラル・マネージャーというのはオーナー側に近く、彼らに代わって球団のすべてのことを決めることが多かった。しかし、21世紀に入ってから、球団の「投資効率改善」の経営的側面と、現場での「成績改善」とのあいだに一線を画した方がいいとのトレンドが生まれ、ジェネラル・マネージャーの上に、「プレジデント・オブ・オペレーションズ」という経営職階の新ポジションをつくり、経営と現場の分離を進めることでチーム力の強化を図っている。
実際、2019年のメジャーリーグの名鑑では、30チームのうち12チームに、「プレジデント・オブ・オペレーションズ」という肩書が見られる。その意味で、まさに選手出身のCEOであるジーターが、現場の最高責任者に選んだのが、アシスタント・ジェネラル・マネージャーとしても活躍し、誰よりもチームというものを熟知していたアングということになる。