法事や行事がない時間帯にお寺を開放し、リモートワークをはじめ個人の仕事や活動に使いたい人とつなぐ取り組み「TERA WORK」を運営する水野綾子氏に、そのねらいを聞いた。
「ローカルインフラ」のお寺ができることとは
取材は水野氏が跡取りを務める、静岡県熱海市内の寺院「富西寺」で行った。自然のささやきが流れ込んでくる環境と天井が高く凛とした空気の漂う本堂、集中して仕事をするには良い環境だろう。
利用可能人数や条件はお寺にもよるが、広い本堂に1、2名程度と空間を利用できる。個人のワークスペース利用のほか、グループワークやオフサイトミーティングでの利用も想定している。宿坊付きのお寺はワーケーション利用も可能だ。
山梨県身延山にある「覚林坊」の一室
2020年10月、東京都の転出者数は3万908人と前年同月に比べて10.6%増えた。転入者数は2万8193人と7.8%減少し、4カ月連続転入数を上回る転出超過となっている。場所を問わない働き方が浸透し、地方に目を向けるビジネスパーソンが増える反面、地方によってはコワーキングスペースが存在しない土地もある。
その点、全国に約7万7000件と、コンビニよりも多く存在するお寺だからこそ「できることがある」と水野氏は考える。
「時代とともに、お寺は葬儀やお盆、お彼岸といった特別な機会にしか訪れない場所になってしまいました。役割が形骸化している部分がありますが、お寺は本来、地域コミュニティの中心でした。
都心から地方まで、どの地域にもある“ローカルインフラ”的な存在のお寺が介在することで、働く人たち、生きる人たちを支えられたらと思ったんです」
人生100年時代、どう生きるかはどう働くかと同義
しかし、なぜお寺が「働き方」を支える取り組みを進めるのだろうか。そこには、水野氏が模索してきた「これからのお寺の在り方」が大きく影響している。
「以前は都内の出版社に勤めていましたが、2014年にお寺を継ぐことを決意して以来、お寺の役割を考えてきました。2017年に熱海にUターンしてからは、お寺が日常生活と断絶している現状を変えようと、お寺でヨガやワークショップなどを行いましたが、次第に葛藤が生まれるようにもなりました。
『何のためにお寺に来てもらうのか?』『そもそも、お寺の役割は何か』の答えが見出せなかったんです」
そんな中、自身のUターンや東京と熱海の二拠点生活の経験などを活かして取り組んできた、地方で複業したい人々と熱海の地域企業とのマッチング支援を通じ、「どう生きるかはどう働くかと同義だと気づいた」という。
「企業や個人が複業(仕事)を通じてやりたいことを実現し、働き方や生き方が変わっていく様子を間近で見てきました。お寺は人の死に介在する場所ですが、裏を返せば死から『生』を感じる場所でもあります。
人生100年と言われるこの時代、お寺として人の『生』に寄り添いたいと思ったときに、人々の働く時間や働き方をより良くしたいと思いました」