みんなが求めている「共通の価値」を見つけ出すには、今までのラジオやテレビには限界がありますが、今はSNSが活かせます。しかし、SNSには広告を入れられる仕組みがあるため、政府は、企業や団体などの資金によるアンチSNS(デマ情報や誘導するような情報が氾濫するような環境)にならないよう対策を立てなければなりません。
そういった様々な立場の人々に寄り添うことのできるインターネット環境を実現することが、真の「社会5.0」を実現してくことにつながるのだと思います。そこから、社会がどのようにして産業をリードするかが具体的に見えてくると思います。その意味では、台湾の2014年のひまわり学生運動は、そのひとつの見本であったと言えるでしょう。
鷲尾:どうすれば、一人ひとりが持っている課題を、みんなの課題として考えられるか。共通の価値を見つけ出すには、そのための仕組みや社会構造(アーキテクチャー)をつくり育むことが必要である。そこに、危機を乗り越えるための創造性が必要とされるのだと思います。
国籍が台湾でなくでも「自分は台湾人」
オードリー:台湾の民主化の進展は、「BY ALL」と近い文化があると思います。その延長としてお話したいのが「Also Taiwanese」という考え方です。
台湾の風景
今現在、多くの外国人は国籍が台湾でなくでも、自分が台湾人だと考えている人がいます。最近の一例として、先日チェコの参議院長が台湾を訪問したのですが、台湾議会でのスピーチで「Ich bin ein Berliner」(私はベルリン市民である)(※8)を引用し、「私は台湾人」だと言いました。
これは民主主義や自由な世界、そしてこれからの国際関係などへのメッセージで、冷戦当時の西ベルリンのように、台湾や香港は、今世界に注目されています。「地球村」として、ともに価値観を共有し協働していく時代であり、台湾もそれに応じる政策も作っています。
「BY ALL」、「クロスセクター」、あるいは「トランスカルチュアリズム」という概念と同様、これからの社会は、単なる国内での多文化主義だけではなく、国境を超えて「世界のみんなで協働していく世界」になるだろうと思います。
鷲尾:昨年、台湾文化部に招聘いただき、皆さんの前で「創造性と都市」についてレクチャーをさせていただきました。若い人たちがとても熱心に耳を傾けてくれていて、その姿がとても印象に残っています。
これは私の個人的な印象なのですが、台湾を訪問し、特に若い世代の人たちと会話をするたび、いつもとても柔軟で開かれたマインドを持った人たちが多いことを感じていました。ですので、コロナ対策のことを知った時、実は私の中ではそれが可能となる状況を容易に想像することができました。
(※8)「Ich bin ein Berliner」(私はベルリン市民である):ジョン・F・ケネディ第35代アメリカ合衆国大統領が1963年6月26日に当時の西ベルリンで行った演説の中の言葉。冷戦下のベルリンへの連帯を表した。