民主化とイノベーションは同義。 オードリー・タンが語る台湾の「上翼思考」

台湾のデジタル担当政務委員、オードリー・タン氏。


知らない人との協働に必須なのは「みんなに説得する姿勢」


鷲尾:「社会イノベーション」を「産業イノベーション」と同じ原理として捉えていくというマインドセット。産業側ではそれはどのような具体的な動きとして現れてくるのでしょうか。

オードリー:台湾では中小企業が多く、ほとんどの就業人口は中小企業に勤めています。

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台湾の風景

サービス業や製造業などさまざまな分野で大きな割合は中小規模の企業になりますので、「変化に強く柔軟に対応する」という姿勢は、台湾の産業においてひとつの特徴とも言えます。必ず知らない人と協働することになりますから、みんなに説得する姿勢が重要になります。

日本語では「説明責任」という言葉があるそうですが、上司が部下に説明するという概念ではなく、自分の中のアイデアを内部や外部の人に説明し理解してもらうということになると思います。

それは大型企業でも同じで、社内の内部からイノベーションを起こしていくという考え方が重視されています。

私は15歳で起業していましたが、起業後、当時ACE Peripheralsという大きな企業にある部門の責任者である李焜耀氏と知り合いました。李さんは、主にコンピューター関連商品を開発していましたが、内部だけでなく世界中で使えるものを開発したいという考えが強かったようです。

すると彼は彼の企業内の部門を、わずか3年間で BenQという名の企業にして起業してしまいました。こうした本来企業の内部にあるヒューマンリソースや管理のノウハウなどを、外部に移し応用するという「スピンオフ」の動きは台湾でよく見られます。

何れにしても、いわば「内部から外部へのイノベーション」ですね。

鷲尾:一人のアイデアを共有し合うことから始まり、それが内から外へと力が広がっていくという動きですね。

確かに、それは民主主義の発想と通じています。

オードリー:協働する姿勢とは「お互いに説得し合う」という精神です。この考え方が、産業界においても生かされ、イノベーションを生み出すのだと思います。

「ソサエティ5.0」の実現に必要なこと


鷲尾:今、日本では「社会5.0」(ソサエティ5.0)という社会変革のヴィジョンについての議論が進んでいます。

人口減少社会においても、生活者が持つ可能性とデジタル技術の可能性とを活かし合うことで、持続的な経済的発展と社会的課題の解決を両立することを目指すものです。オードリーさんもこの「社会5.0」というコンセプトはご存知ですよね。ではこのヴィジョンを実現するためには、何が重要な課題だと思われるでしょうか?

オードリー:「社会5.0」は「工業 4.0」(インダストリー4.0)と対照して新しく生まれたコンセプトですね。これからは、産業が社会を引っ張るのではなく、社会が産業をリードするという考え方はとても重要だと思います。

「社会がリードする」というのは、政府が上から市民に指示を出すということではなく、逆に、謙虚になって市民の声に耳を傾けることです。そして、そのことによって、みんなが求めている共通の価値を見つけ出すことです。
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