「8割が酷評」も受け入れる
昨年10月に行われた「ワークマン過酷ファッションショー」というイベントで、出演したアンバサダーたちが言った一言が、衝撃的だ。
3人のアンバサダーが揃って「ワークマンはデザインがいまいち」と発言したのだ。ファッションショーでは、前代未聞の発言だろう。同社のアンバサダーのなかには、ワークマンの製品に対して「8割が酷評」の人もいるという。
ワークマンでは、アンバサダーは完全に「身内化」している。アンバサダーとは「金銭の授受」が一切ない。そのため、彼らは何の咎めなしに酷評を言えるのだという。土屋氏は、「耳の痛い話を聞けることは、非常にありがたいことです」と朗らかに話す。
アンバサダーからの正直な感想が、製品をより良くするのに役立っているのだという。また、酷評も言う人の意見は、信憑性が高く、消費者からの信頼も得やすいという。
アンバサダーにとっては、自分が開発に携わった製品をいち早くレビューすることで、ブログのアクセス数や、動画のチャンネル登録者数を増やすことができる。お互いにwin-winな関係が築けているのだ。
「しない経営」はどんな企業にも通用するか
最後に基本的な疑問をぶつけてみた。隙間市場はあくまでも「深掘り」型企業だからこそ発見できたのではないのか。どの業界のどの企業にも応用できる「隙間探し法」は果たしてあるのか。
土屋氏は、「隙間市場は、自社に合った、自社らしい細分化をすれば見つけることができます」と言う。
どの企業にも、今日まで事業を存続してきたことによる強みや理由があるはずで、そこから逸脱した「新機軸」は失敗の元だ。なによりも、自社のファンでいてくれた顧客を置いてけぼりにするような「隙間探し」は言語道断だ。
これまでの自社の「強み」は何だったかを考え、「自社なりの」市場細分化をしていくこと。それさえできれば、どんな企業でも「隙間」を見つけることはできる、というのだ。
その「自社に合った」隙間を見つけるために必須になるのが、「自社らしくないことはしない」経営であり、「社員にノルマや締切りのプレッシャーを与え、マイクロマネジメントで厳しくチェックするような無駄」もしない企業風土だ、という。
土屋氏は、「とにかく『時間を味方にする』こと」とも強調する。
「何事も始めたての頃はガツガツやりたくなってしまう。ですが、時間を短く区切って目標に到達しようとすると、かえって目標から遠くなると思います。これからの時代はあまり頑張りすぎないで、焦らず時間を味方にする。それが成功への近道となる。私はそう考えます」
『ワークマン式「しない経営」──4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』(土屋哲雄著、ダイヤモンド社刊)