べき乗で見る世界の広がり
この映像「Powers of Ten」(「10のべき乗」 べき(冪)は同じ数を何度か掛け合わせた数)は、モダンな椅子のデザインで有名なチャールズとレイのイームズ夫妻が、1968年にIBMに依頼されたコンセプトを元に製作して1977年に公開されたもの。スケールの変化を使って、われわれの暮らす世界から宇宙の果て、さらには極小の世界までの全宇宙の姿を10分足らずで見せてくれる優れた科学教育的な作品で、解説本も作られ、現在もこの映像をネットで観ることができる。
60年代から70年代にかけて、月に人間を送ろうと宇宙開発が激化し、地球から何十万キロも離れた人類が初めて自分の暮らしている星が丸いことを目にし、雑誌「Whole Earth Catalog」が丸い地球の写真を初めて掲載し、世界観が大きく変化した時代に作られたもので、当時の雰囲気をよく伝えるものになっている。
実は宇宙をこうしたスケールの変化で見ると、驚くべきことがわかる。人間のサイズの30乗倍が宇宙の大きさで、30乗分の1が最も小さな素粒子のサイズになるというのだ。われわれは宇宙全体の中で、スケールとしてちょうど真ん中に位置する、大きすぎも小さすぎもしない存在であるらしい。しかしその理由はまだわからない(ひょっとしたら人間中心主義の思い込みなのかもしれないが)。
毎回の結果が同じ率で変わっていく幾何級数もしくは指数関数的な変化は、複利計算などでも知られており、日本でも豊臣秀吉の家来が褒美として「初日に米1粒、その後は毎日、前日の2倍ずつ1000日間もらう」という約束をして、途中でとんでもない量(301桁)になることが判明した、という逸話が有名だ。
毎日努力して1%ずつ成長すると、1年で37倍(1.01の365乗)になり、1%ずつ手を抜くと0.03倍(0.99の365乗)になる、という話がネットでも話題になっていたが、次々と何倍かにしていく思考法は、日常の量を直線的に辿っていく感覚とは大きくずれるものだ。