時空を自在に空想してみる
ついでに10にこだわって、今年2020年から10年前、さらに倍と遡ってみよう。
10年前の2010年は、21世紀が始まって、新しい時代に期待が高まっていた頃だったが、「情報産業」という言葉を提唱し大阪の民博の初代館長だった文化人類学者の梅棹忠夫や、フラクタル理論で有名なブノワ・マンデルブロが亡くなっている。
「はやぶさ」の初号機が満身創痍で帰還し、ジュリアン・アサンジのウィキリークスが米軍の外交文書を暴き世界が動揺した年だったが、前年にはリーマンショックが起き、翌年には歴史的に大きな転換点とも言える東日本大震災が襲った大変な時期だった。
倍の20年前の2000年は世紀の変わり目で、アメリカの情報化の急先鋒だったアル・ゴアが大統領選で敗れ、前年までは桁数表示の問題でコンピューターが停止してしまうとされる2000年問題で世界がパニックになっていた。
ネット時代が本格化し始め、「ITバブル」と言われる景気上昇が起きていてグーグルなどが操業を開始していたが、結局はバブルがはじけ経済が失速することになる。これまた翌年にはアメリカで9・11のテロが起き混乱の続く千年紀の到来だった。
そのまた倍の40年前の1980年は、特に思い出深い年だった。パソコンと呼ばれる新しい超小型のコンピューターが世に出て、電話を中心としたコミュニケーション手段のデジタル化が始まり、コンピューターとコミュニケーションがデジタルで融合し始め、アルビン・トフラーの『第三の波』が出て、ニューメディアブームが起こった頃だ。
1980年発売のApple III(Photo by Mark Madeo/Future via Getty Images)
そしてどういうわけか、多くの有名人が亡くなった年でもあった。まずは今年話題になっていたジョン・レノンが12月8日に40歳で暴漢に射殺され、世界に衝撃を与えた年だった。
その他にも、映画監督のアルフレッド・ヒッチコック、俳優のスティーブ・マックイーン、ジャズピアニストのビル・エヴァンス、小説家のヘンリー・ミラー、KFCのカーネル・サンダース、ENIAC開発のジョン・モークリー、精神分析学者のエーリヒ・フロム、社会学者のロラン・バルト、哲学者のジャン=ポール・サルトル、思想家のグレゴリー・ベイトソン、心理学者のジャン・ピアジェなどが続く1年だった。
メディアを論じる際に忘れてはならないマーシャル・マクルーハンも大晦日に69歳で亡くなっている。比べるのもおこがましいが、同じ齢であったことに驚く。
80年前の1940年は、前年に第二次大戦が始まっており、翌年は日本も参戦した歴史の曲がり角の年だったが、個人的には生まれていなかったので記憶にない歴史の話だ。
とりとめのない数字の話をだらだらと書き連ねたが、コロナ禍によって動きを止めたような失われた2020年という年が暮れようとしているとき、家に籠りながら、目先の“いま・ここ”にとらわれることなく、遠い場所や時間のことをつい想像してみたくなった。
この年は一体、遠い将来どう評価されるのだろうか? 「心に感じうるものとなった時間と空間」というプルーストの愛の定義を思い出した。
連載:人々はテレビを必要としないだろう
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