「倍々」思考で世界を振り返ってみる

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以前に紹介したムーアの法則もまさに、18カ月から2年で性能が倍化するというこうした例の典型だ。この法則は、加速度的な変化が驚異的な変容をもたらすことで、ついには人間の能力をコンピューターが上回るというシンギュラリティーの論議につながり、こうしたスケールの変化がイノベーションの本質だと唱えるシンギュラリティー大学までできた。

またネット社会でつながる人々も、こうした幾何級数的な関係性を維持し実践している。米社会学者のスタンレー・ミルグラムが1967年に行ったスモール・ワールド実験から明らかになったように、誰もが6人の知人を介してつながっている「6次の隔たり」現象が有名だ。


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何かを調べるときも、全員に順番に尋ねるのではなく、友人たちに聞き、そこで分からなければ友人の友人に他の知っていそうな人を紹介してもらうという操作を繰り返すと、6人目で世界のどこかで知っている人に行き着くことになる。

英人類学者のロビン・ダンバーは、1990年代に人間が円滑に関係を保てる他人の数は150人程度(ダンバー数)だと論じたが、平均的に連絡可能な友人の数をその1/3の50人以下とするなら、44人の6乗が約72億となり、全世界の人にリーチできることになる。昔は世界中の人とつながる手間は大変なものだったが、いまでは不十分ながらもソーシャルメディアが「6次の隔たりマシン」のように働いている。

歴史をスケールで回顧する


こうした発想は空間的広がりを論じるのに便利であるばかりか、時間の領域に応用してみると、歴史の全体的な構造が一瞬で見えてくる。

大学の授業でメディアの歴史を教えているのだが、学生はどんなメディアが何年前にできたかなど、自分と関係ない遠い昔の話は実感がわかない。人は自分の人生で経験したことや関係することは関心もあり理解しようとするが、生まれる前の過去の話はどうしても抽象的な「お話」になってしまう。

そこでこれまで生きた年数を元に、それを10倍にしてみるよう提案している。20歳ぐらいの学生が、まずは自分の人生の長さを10倍し、200年ほど前は何があったのか(端数は人によっても違うのでだいたいの数で)を考えてもらう。

200年ほど前の19世紀の初頭は、18世紀末にフランス革命で王政が崩壊してナポレオンが欧州全体を席巻していたが、科学革命や啓蒙思想の成果として産業革命も起き、新しいテクノロジーの成果が花開き始めた頃だ。ボルタが電池を発明しスティーブンソンの蒸気機関車が走り、電信や写真術が発明されバベッジが階差機関という機械式コンピューターの原型を考えていた。

つまりテクノロジーが新しいメディアを生み出し、それによって工業生産力が大幅に向上し、人口が爆発的に増えるのと同時に、資本家と労働者の確執が起き社会主義が唱えられ、ついにはダーウィンが進化論で神の存在を疑問視する。それらこそ、現在のメディア革命の元となるイノベーションの時代だった。
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文=服部 桂

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