大学でも進む「変人」教育 研究所や講座設置の意図は?

東京学芸大学 変人類学研究所 ワークショップの様子


大阪大学と京都大学でも「変人」に注目



大阪大学 人間科学部ウェブサイトより

2017年3月、大阪大学人間科学部でも、高校生向けPR用に作成されたウェブサイトにおいて、「人科≒変人!?」とのキャッチコピーが掲げられた。

2022年で設立50年を迎える日本初の人間科学部は、設立までの道のりは平坦ではなく、さまざまな紆余曲折もあったという。そのため、自分たちにしかできない学問をしようという気風が強く、その結果として当初から「変人科」を自称していたという。

今回改めて学部として、その特徴を高校生向けにPRしようと考えた際にも、やはり約半世紀の歴史のなかで脈々と受け継がれてきた「変人」気質を前面に押し出すこととなったという。

PRページでは、学部に所属するさまざまなタイプの「HEN-JIN」をピックアップして、人間科学部に集まる人々の多様性を、学部の魅力として打ち出している。

同学部の三浦麻子教授(社会心理学)によると、「私たちにとって変人であることの方がむしろ普通で、当然のこと。社会心理学的に考えても、ある程度の共通性を持ちつつ、いろいろな人を集めた方が良い成果に結び付く。『変さ』にもいろいろあるが、『ちょっと変』という程度のものを許容できない空間というのは、社会として豊かではない。大阪大学人間科学部が変人科であるということは、当たり前のことをあらためて明示しただけという感覚」とのことだ。

2017年5月にスタートした京大変人講座は、文系再編や産業界が求める人材の育成を求める文部科学省による国立大学改革に対する危機感を背景としており、京都大学の教授有志らによって設立された。

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京都大学 京大変人講座の様子

講座には、毎回、京都大学の教授や学生が登壇する。過去には総長自らも登壇しており、2019年には『京大変人講座』という書籍まで出版されている。講座の内容は、地球の歴史において当時の「変」だった生物が生き残り次の時代の主流となっていった話や、いくつかの電卓が同じ計算式なのに異なる結果を出してしまう話などを通して、人間社会にとって、変人の存在意義や多様性の重要さ、いま正しいとされていることの不正確さなどをアカデミックに伝えるものとなっている。

同大学の酒井敏教授(地球流体力学)によれば「正解主義の弊害や主体性の欠如の傾向が強まっている京都大学の教職員や学生に対して危機感を持っており、この変人講座をきっかけにして、彼らの間に気づきが生まれることを狙っている。京都大学が持っていた自由さや多様性を紹介しながら、変でもいいんだ、変なことも大切なんだと感じて欲しい」と語る。
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文=谷村一成

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