ニッポンのアイデンティティ

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2022年卒の就職活動が、すでに動き出している。冬のインターンシップやそれに向けての選考が開催され、一部ベンチャー企業などではすでに内定を出しているような場合もある。

コロナ禍の影響で、去年までの強烈な売り手市場状態はやや緩和された感はあるが、人口減少が進むなかで、「優秀な人材」の獲得競争は熾烈を極めている。

そんななかで、企業側も生き残りをかけて、各社で特色のある採用活動を行っているのだが、近年注目されているのが「変人採用」である。

「変人採用」は究極のダイバーシティ推進


音楽系事業会社のソニーミュージックは2017年度の採用において、「変人、募集中。」というキャッチコピーを打ち出し、話題を集めた。

また、朝日新聞社が100%出資する、コンテンツマーケティング事業などを手掛けるサムライトも、イノベーションを起こす人材の採用をめざして「変人採用」を打ち出している。サムライトでは、エントリー時に変人エピソードを提出することを就活生に求めており、「変人」ぶりが合否判定に影響を及ぼすようだ。

実は、「変人採用」は近年始まったものではない。JT(日本たばこ産業)は「変人採用」の老舗ともいうべき存在だ。これを推進してきた米田靖之さんは『JTの変人採用』という本も出版している。この取り組みは、米田さんが人事担当となった1987年頃からスタートし、徐々に確立されていったという。

JTでは、「変な人」=「おもしろい部分がある人」と定義されている。そして、他の人と異なる視点で物事を捉え、行動できる人とも説明されている。もちろん、奇言や奇行の目立つ異質な存在としての「変人」とは明確に区別している。

JTでは1980年代から行われていた「変人採用」だが、近年の就職戦線でトレンドとなっているのは、障害者採用や外国人採用、LGBT採用など、企業の採用活動が多様性やダイバーシティをキーワードに行われていることと関係しているかもしれない。

また背景には、失われた30年という経済状況や、めまぐるしく変動する国際情勢や最新技術の発展のなかで、日本企業が変革を迫られているという事情もあるのだろう。企業側は、変革やイノベーションを起こす起爆剤として、多様性ある採用を行っており、そういった採用の最終形態が「変人採用」という言葉に集約されているのではないだろうか。「変人採用」は究極のダイバーシティの推進なのだ。

「変人」の定義とは相対的なもの


そうした意味で「変人採用」を掲げる企業が増加していることには意義があるが、気になるのは、「変人採用」における変人の定義だ。

広辞苑によれば「変人」とは、「一風かわった性質の人。変り者。奇人」となっている。つまり、普通という存在があり、そこから外れる人のことを指している。

ここで注意したいのは、「変人」とは、単に「普通からのズレがある人」ということを指しているだけであり、そのズレのあることが、価値があるとか、価値がないとかといった判断をしていないことである。

各社のHPなどを参照したところ、「変人採用」における変人の定義は、イノベーティブな人材やクリエイティブな人材という意味合いのものが多かった。ただ、このような人材というのは、これまで企業が「求める人物像」として提示してきたものとたいして変わらない。

常識を疑う視点、豊かな発想力、現状を変革する行動力など、「変人採用」と言っても、単に優秀な人材を採用しようとしているだけと考えることもできる。優秀な人材の獲得に向けたアピールとして、パワーワードである「変人」という言葉を用いているだけなのかもしれない。

文=谷村一成

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