また、産業界の要請に即した「社会に役立つ」人材の育成を大学に求める風潮も強まっている。文部科学省による文系学部再編の提言は大きな話題となった。そうしたなかで、大学においても「変人」がフォーカスされるようになってきている。
中央大学で始まった「変人学部」
2016年4月、中央大学で「変人学部」が設立された。もちろん大学の正式な実際の学部ではないが、筆者を含む、当時、中央大学に在籍していた学生有志によって創設された組織だ。「変人」の再定義と価値観や大学生活の多様な選択肢を提示することを目指し、大学当局や卒業生会、企業などともコラボレーションしながら活動していた。
高校生までの間、教師や両親が提示したいわゆる「正解」を信じてきた学生たちだが、大学に入学して、突然自由を得たことで、右往左往してしまうことが多い。
どの講義を取るかも自分で決められず、履修相談には長蛇の列ができる。そのままなんとなく大学生活を過ごして、就職活動で自らの独自性を問われると、漫然とアルバイト経験などを話す。
そんな主体性の欠如した同世代の学生たちに危機感を抱いたことが設立のきっかけだった。学生たちは、他人に決められた判断軸に沿って生きることに慣れ、自分が決めるということを忘れてしまっているような印象だった。
毎月、複数回開催される変人学部の「講義」では、「受講者」と同じ中央大学の学生たちに登壇してもらい、拙い言葉ながらでも、自らの考えを語るスタイルを厳守してもらった。
仮に著名人や教授による「講演」では、学生たちは「自分とは違う別次元の話」として聞き流してしまう恐れもある。同じ立場の人間からの発信だからこそ、中央大学の学生でもこんなに価値観は多様なのか、自ら決断してこんなことをやっているのか、という良い意味でのリアリティや刺激を与えることができると考えたのだ。
中央大学 変人学部で行われる講義の様子
現在、中央大学変人学部は、大学という冠を取り「変人学部」と名称変更し、活動の幅を大学生のみならず若手社会人などにも広げている。
2017年2月に東京学芸大学で設立された変人類学研究所は、東京学芸大学内に設置された共同研究機関である。研究所のメンバーは、同大学の教授や准教授などを中心に、他大学や社会人メンバーも加わり、構成されている。
活動は、「変」という言葉が象徴してきたような異質さや辺境さ、マイノリティの持つ特異な視点が、社会・文化空間においてどのように扱われてきたのか、包摂と排除の力学がどのような文脈において発動するのかを研究することで、包摂性(インクルーシブ)をベースとする教育の基礎研究とプログラム化を促進している。
また、周縁化されたこどもたちの独自の能力の源泉(変差値)や、その維持力や拡張力のメカニズムを明らかにして、急激に変動する現代社会に適合する次世代のクリエイティブ教育の方法論、およびその環境設計の構築を目指している。
どちらかと言えば、研究開発機関としての側面が強いが、学習指導要領の大幅な改訂やセンター試験の廃止などで従来の教育が大きく変わろうとしているいま、変人というキーワードを通して教育のあり方や本質を問い直している。