あるスコットランド人青年を虜にした、日本漫画の「あのシーン」

(左)『ラヴ・バズ』の一部シーン。(右)Getty Images


ウィルソン:絶対に藤さん程自分に正直でも純粋でもありませんが、学校のストレスも、周りに迷惑をかけてしまうことも本当で、藤さんに共感できるところはあると思います。一方、門倉さんが述べた「なれない」という気持ちも、その矛盾も、分かります。

門倉:だんだん世の中と「うまくやる」ことを身に着けてしまって生きやすくはなりましたが、本当の自分を出すことが難しくなってしまいました。かといって「本当の自分」を出すのを諦めることもできない……そう感じている人は多いように思います。

ウィルソン:自分を失わずに社会の要求にうまく応じることは大変難しいですね……。志村さんは誰のために漫画を書いているか、考えたことはありませんが、「本当の自分」を出す方の心にも、出すことに苦労する方の心にも、響く漫画だと思います。


「ダイバーシティ」という概念の理解と浸透が急速に求められている現代において、「本当の自分」「そのままの自分でそこにいる」というメッセージを発し続ける志村作品の持つ力は大きい。さらに付け加えると、何十年も前から漫画にはあらゆる人、あらゆる生き方が描かれており、漫画を読むこと自体がダイバーシティの理解につながるとも言えるだろう。

ダイバーシティに限らず、時に表層的に消費されてしまう言葉や概念の本当の意味を、漫画家たちはいつも(どれくらい意図的かは作者・作品ごとに違うとしても)エンターテイメントにして見せてくれる。だから私たち読者は漫画を読むことで、楽しみながら自然に深い理解を得ることができるのだ。

第3回では、志村作品以外のウィルソン氏お勧めの日本漫画を紹介する。

第1回 漫画「世界1180億円市場」 スコットランド人青年が見つけた「自分の物語」はこちら

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門倉紫麻◎フリーライター。ローンチ当初のアマゾン ジャパンでエディターを務めた履歴を持つ。「コミック」部門の売り上げ増に注力する中で多くの作品に出会った経験から、メディアを通じて日本漫画の魅力を発信したいと思うようになった。現在は漫画に関する寄稿を諸媒体へ旺盛に行うほか、文化庁メディア芸術祭など漫画賞の審査員経験も多い、知る人ぞ知る「漫画ライター」である。著書に「週刊少年ジャンプ」作家へのインタビュー集『マンガ脳の鍛えかた』(集英社刊)、2.5次元ミュージカルの作り手へのインタビュー集『2.5次元のトップランナーたち 松田 誠 茅野イサム 和田俊輔 佐藤流司』(集英社刊)、フランス人漫画愛好家のための漫画用語集『Le Japonais Du Manga』(Misato RAILLARDとの共著、ASSIMIL<フランス>刊)などがある。

文=門倉紫麻 編集=石井節子

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