あるスコットランド人青年を虜にした、日本漫画の「あのシーン」

(左)『ラヴ・バズ』の一部シーン。(右)Getty Images


ウィルソン:「死のう」なんて言われる怖さ、失敗の怖さ、怒られる怖さが全部混じることを感じました。読者として「そんなことしないよね。絶対にそんなことなんてしない」とか思いながら、「もしかして」の不安もあったと思います。これからどうなるかという心配も。それに、少し大げさなシーンなのに凄い実感がありますね。
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門倉:町屋の中に、藤への本当の怒りと本当の愛情とがあったからこそ半分本気で出たセリフだと思います。裏切った側の藤も自身に幻滅していて、「死のう」と言われるのも当然だと感じているようにも見えました。

人物を「そのままの自分で」そこにいさせるすばらしさ


ウィルソン:『ラヴ・バズ』だけではありませんが、志村貴子さんのような、キャラクターが、そのままの自分でそこにいる(英語だと“by simply having the characters be themselves”) 姿を描くだけで、読者の心の底からの笑顔を引き出せる作家(漫画家)は、珍しいと思います。大げさな絵のギミックに頼らずに興奮や幸せを巧みに描写して、読んでいるうちにそれが自分に移ってきます。物語の場所や出来事の雰囲気だけじゃなく、瞬間ごとの雰囲気を感じます。

日本の読者さん達の印象が同じでしょうか。違うでしょうか。もし違うなら聞きたいです!
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門倉:私たち読者が思っていることを、ウィルソンさんに言葉にしていただいたと感じました。『ラヴ・バズ』の藤は、まさに「そのままの自分でそこにいる」人ですよね。周囲に迷惑をかけるけれど、最終的には「それも含めて彼女なのだ」と作中の人物たちも、読者も彼女を好きになってしまいます。

ウィルソン:『放浪息子』の「本当の自分として生きたい」ところや『青い花』の色んな複雑な気持ちを探る物語も素敵だと思います。読む時、人生は確かにこういうさまよう感じだなと思います。どっちも演劇に関わるところがあることも個人的に好きです。ちいさな演劇団に参加していますので。

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『放浪息子』より。『放浪息子』(第1回参照)は、女の子になりたい男の子と男の子になりたい女の子の物語。

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『青い花』より。『青い花』では、高校生の女の子たちが、女の子への切実な恋に揺れる。志村作品には、人生の中で「さまよ」いながら「本当の自分」でいる方法を模索する人々が多く登場する。

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志村貴子『青い花』全8巻、太田出版

ウィルソン:『ぼくは、おんなのこ』や『かわいい悪魔』等の作品集も大好きです。短い漫画の話を読むことは今まで一度も会ったことのない人が物語らしい出来事を正直に打ち明けた様な、実際にとても珍しい気持ちを湧き出させます。たったの短い時間なのにこれからずっと忘れないような経験です。

実は、志村さんの『敷居の住人』と『淡島百景』、『ビューティフル・エブリデイ』をまだ読んでいませんが、どんな物語なのか、好奇心でワクワクです。「積ん読」常習犯ですみません! 連載中の 『おとなになっても』も大好きです。毎月次はどうなるか知りたくて雑誌の電子版で読んでいます。

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『おとなになっても』より。ダイニングバーで働く朱里と、客として来た小学校教師・綾乃は、出会ってすぐ惹かれ合う。だが綾乃には夫がいて……。先が読めない、女性2人の恋物語。

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志村貴子『おとなになっても』1~3巻(「KISS」にて連載中、講談社)

志村貴子さんの漫画を読んでいると、主人公達をどうしても応援したくなりますし、自分の友人や知り合い、親戚等、本当の自分として生きようとしている皆さんを応援したくなります。
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文=門倉紫麻 編集=石井節子

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