そして中島さんはこう続けた。
「日本では無料どころか医療保険の適用にもならず、まるで妊娠出産は自己責任と言われているかのような状況ですが、ドイツでは、若年の妊娠出産は社会の課題として認識されており、大人も子どもも、お金があってもなくても、すべての人が『セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)』を守ることができる社会のシステムが整備されている。アフターピル市販化を実現することは、子どもたちの性の健康だけでなく、人生そのものを守ることに直結しているんです」
自分の力で生きのびてきた、漂流する妊婦たち
親や血縁の後ろ盾の少ない、社会的養護を経験してきた人たちについてはどうだろう。
「児童相談所と関わりがあり、自立援助ホームや児童養護施設、乳児院、一時保護所の経験がある子からの相談もあります。そうした施設の経験がある子の中には、私たちが彼女たちの居場所として『婦人保護施設』という言葉を出すと、『施設は絶対イヤ!』と、拒絶する子もいます」(中島さん)
命をつなぐために世話になったことは事実。だが、適切な対応をしてもらえなかった経験などから、たとえ施設を出た後の生活が不安定であっても、再び公的な支援を受けることへの拒否感が強く、「施設に入るぐらいならさまよう」と言って、繋がりが途切れてしまう場合もあるという。
「出会った妊婦さんそれぞれ、ニーズは違っています。そのニーズにある程度応えられる場所が提示できなければ、会ったことがない人の家であっても、ネットカフェでも、自分が見つけたところに行ってしまうことがあります。
これまでもそうやって、自分なりの社会資源を作って生き延びてきているし、今夜の寝る場所や食べるものをどうするか、今日の生活で精一杯な状況では、この妊娠をどうしたらいいか考え行動することはどうしても後回しになってしまいます。
私たちは、お腹も大きくなって、大丈夫かなとか、病院通えなくなっちゃうよとか、心配になりますが、だからといって縛りつけておくこともできない。だから、行った先がダメだったらまたこっちに連絡してね、と待つしかない」(中島さん)
しかし相談が途切れてしまったり、遠くに行ってしまったりしても、週数が進んでからまた戻ってくることもある。
「出産や子育ては未知の世界。誰だってやっぱり不安です。誰かに頼らないとどうにもならない出来事だからこそ、それまでひとりでがんばってきた子も、いよいよとなって、もう一度SOSを出してくれることがあります。その時には覚悟を決めているから、前よりもサポートが入りやすい面はあります」
中島さんが『漂流女子』を出版したのは2017年10月のことだ。そこでは相談の中で出会ってきた「思いがけない妊娠から相談先を探しながら孤立している女性」たちのことが紹介されている。
法律や居場所、どこにもフィットしない若い妊婦たち
若年で、様々なリスク要因を抱える妊婦は、「特定妊婦」と呼ばれる。平成21年の児童福祉法改正で出てきた言葉で、出産前から児童の養育に関して心配事や課題を抱える妊婦を、妊娠期から支え、虐待を防ぐことを目的として作られた。