事故処理の効率化は社会的な課題
事故が起きた場合、自動運転車メーカーは必ず原因を深く掘り下げて検証するだろうから、問題を解決することができる。あらゆる公判の際に、原因究明結果の提出を求められるようにもなるだろう。裁判を効率化する方法はまだ見つかっていないが、われわれはそれを見つけなければならない。
保険会社が果たす役割も変わっていくに違いない。基本的な保険商品については、自動運転車によるタクシー事業を始めたウェイモのような事業者が自家保険をかけるほうが合理的だ。彼らはリスクを熟知しており、それにかかる経費も準備している。ウェイモやアマゾンや大手自動車会社などは巨額の資本を持っているため、従来型の自動車保険を必要としない。もっとも、事故処理を効率化するために保険会社を必要とするようになるかもしれない。
とはいえ、すぐにそうなるわけではない。誰だって、最初から効率化を考えたりはしないからだ。むしろ、痛ましい傷害事故を「効率的に」処理できるようになった現在の自動車保険には違和感を覚える。自動運転車の場合も、被害者への賠償を効率的に行おうとすれば、当初は世間の反発を食うだろう。予想していた人もいるだろうが、これまでに起きた唯一の事故──ウーバーの自動運転車がホームレスの女性をひいたとき、ウーバーはすでに争議を効率的に解決するシステムを自社開発していたことが発覚した。人間の運転するウーバー車が起こす事故が減らないために必要に迫られて開発していたのだ。
その解決システムのおかげで、世界の注目を集める前に被害者家族との和解をすばやく成立させることができた。被害者がホームレスで、悲しいことに気にかける人々が多くなかったことは、ウーバーにとっては幸運だった。
NTSB(国家運輸安全委員会)は死亡事故を起こしたウーバーの車両を調査している (写真NTSB)
それでも効率化は求められている。もし自動運転車の事故が人間の起こす事故の5分の1の数になれば、それは社会にとって大きな恩恵だ。しかし1件あたりの事故の解決費用が、潤沢な資金を持つ被告と法廷で争うことで6倍になるとしたら、それは社会全体の損失であり間違った結果を生む。良いことをした企業が、それを理由に罰せられることもありうる。さらに60倍もの費用がかかったら、たとえ人命を救えるとしてもビジネスとしては成立しなくなる。