自動運転車の普及で保険料が高騰? ウーバー事故に思う「効率化」の是非

衝突事故が増えないのに、自動車保険料が上がることがあるのだろうか? (写真: Getty Images)


一般的に、被告が特別に裕福で、訴訟を続ければそれなりの見返りがある場合を除けば、被害者は賠償金を被告が加入している保険金額の範囲で納得することが多い。だからそんなことが起きるとしても、ずっと先の話だ。その頃には、ほとんどの人々は乗客として車を利用するようになり、自分で運転するのは乗馬のようにちょっと気取った趣味のひとつになっているかもしれない。そうなれば、人間を保護する最新の衝突保護システムのついていない旧式の車を運転したがる人は、訴えられる危険を覚悟すべきだろう。

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自動運転車メーカーの場合


自動運転車にかける保険についての予測はまったく異なる。現在は保険金額を決定するために、ドライバーをリスク要因と捉え、大勢の保険数理士がその運転リスクを数値化している。彼らは自動運転車にどんな事故のリスクがあるのかまるでわかっていない。自動運転車のリスクを徹底的に研究し、適切に数値化できるのは開発エンジニアだ。保険数理士は人間の運転パターンを研究しているが、自動運転車には特有のパターンは存在しない。

実際、自動運転車が事故を起こすと、事故原因となったプログラムのバグは修正され、その会社の車は(あるいは他の会社の車も)同じミスは二度と起こさなくなる。良くも悪くもどんな事故も一度しか起こらない。良い面は、事故はめったに起きないということ。悪い面は、最初のうちは法制度が追いつかず、効率的に対処できないことだ。

これまでのところ、交通事故は世界で最も数の多い違法行為であり、事故の大小や数え方によって幅があるものの、米国内では毎年600万から2500万件の事故が発生している(そのほとんどが警察も保険会社も知らない小さな接触事故だ)。それだけの事故が起きているのに、裁判になることはまずない。保険制度の最大の貢献は事故処理を大幅に効率化することにある。もしもすべての事故を裁判で解決することになったら、莫大な費用がかかるだろう。

一方で、保険業界はうまくやりすぎているという声もある。彼らは賠償金額を低く抑えたいと考えており、米国の保険会社は年間約2000億ドルを支払っているが、NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)は実際の損失額は約8700億ドルと試算しており、その差は極めて大きい。とはいえ、すべての事故が法廷で争われることになれば、賠償額はさらに高額になる。弁護士は事故を安く解決するコツを知っているわけではないからだ。自動運転車の事故は前例がないため、賠償額が非常に高くなるケースも出てくる可能性がある。
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翻訳・編集=川崎稔/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

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