「エリエス・ブック・コンサルティング」代表取締役 土井英司
土井は、異文化理解の中でも、グローバル人材にもっとも必要なのは、相手の「ルーツ」に関する教養という。そして、この場合の「ルーツ」とは、相手の国の歴史や価値を重く置くポイント、そして欧米文化の場合、とりわけ「キリスト教への理解」だ。
「相手のルーツを知れば、弱点も見えてきます」と土井。「ルーツを理解してさえいれば、グローバル市場でゲームを闘う上で圧倒的に有利になります」。
こんまりのヒットの理由の1つも、彼女が実に効果的に、アメリカの「弱点」をつけたからだという。
「世界で最も影響力のある100人」で、こんまりが着たドレス
アメリカは比較的新しい国だ。だからこそアメリカ人は、歴史を背景にした物語や、歴史に立脚した精神性に魅力を感じる。そして、世界中から集まった人びとで構成され、多様で新しいものにありふれているからこそ、そこに「カオス」も存在することを土井は知っていた。そして、「カオス」を「秩序」に変換する手段に飢えていることも。
土井がこんまりプロデュースにあたり、この「アメリカという国は、日本に比べて歴史が浅い」という「弱点」を利用した、ある例がある。2015年、米『TIME』誌でこんまりが「世界で最も影響力のある100人」に選出された際の式典で、彼女が着用したドレスである。
彼女が着たのは、欧米史のルーツとさえいえるギリシャの「女神」をイメージした純白の神秘的なドレスだった。
首都アテネを「欧州文化都市」の初指定都市ともしたギリシャは、日本から見れば決してメジャーな国のイメージはないものの、土井から言わせると西欧文化の「ルーツ」なのだ。
そのギリシャを想起させるビジュアルでアメリカ人の「歴史や由緒、ルーツへの憧れ」を刺激し、ギリシャ同様に長い日本の歴史、そこに宿る深い精神性や神性をも想起させたのだ。
「2015 TIME 100 Gala」の式典に、彼女のクリエーターであり、現在のプロデューサーでもある夫の川原卓巳(左)
と参加した近藤麻理恵。世界中からスターが集まり、エマ・ワトソン等も同式典に出席(Getty Images)
土井は数年前、1年ほど米国に住んだが、その際に、ニューヨーカーをはじめとするアメリカ人の「引っ越し文化」や、「荷物が溢れたらガレージやトランクルームへと物を移せばいい」という発想にも気づいていた(おもしろいことに、「Konmariブーム」後、ニューヨークの地下鉄からは、トランクルームの広告が減ったという)。
土井はこのように、アメリカという国に住む人々のコンプレックスや弱点を把握していた。そして、その「弱点を埋めるソリューション」をこんまりを通して提供させたことも、米国での彼女の爆発的な人気の要因のひとつだったのだ。