テクノロジー

2020.11.12 14:30

ここは新しい時代が切り拓かれる場所。自然とロケットが融合する種子島を訪ねて

550tの巨体のたたずまいが島の空気と一体化する


バルーンで調査している様子
打上げ前には、バルーンに取り付けた観測機器で温湿度・風速風向など上空約20kmまでの大気の状態を観測する。
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未知の領域へのチャレンジ、この世界の真理を探求する精神。極めて理性的かつ知的に積み上げてきた知識と技術と、それに伴う失敗と経験。ロケットに関わる人々がそのすべてを逃さず繋いできたからこそ、今の景色がある。

「今日は打上げ延期となりましたが、変わらず臨戦態勢です。すぐにリカバーして、確実な打上げに繋げますから」

浮かぶバルーン
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準備と本番、そして延期。続く原因究明とリカバリー。まさに疲労のピークというさなかで、福添氏はロケット発射場を望む長谷展望公園で私たちの撮影に応じてくれた。

「もう昼食は食べました? あそこのお店はすごく美味しいから、よかったらぜひ行ってみてくださいね」

極限を知る人には、どんな状況にも対応できるようなフレキシビリティが、備わっている。そして強く穏やか。わずか15分の対話のなかで身に沁みて実感した。

基地を見おろす福添氏
長谷展望公園からは、ロケット発射場が見渡せる。

自然と人類のチャレンジが、一つに融合する


それから14日後の9月25日、深夜1時5分5秒。H-IIBロケット8号機が、ついに種子島宇宙センターから打ち上げられた。約15分2秒後には「こうのとり」8号機がロケットから正常に分離され、打上げは成功。その後も順調に飛行を続けた「こうのとり」8号機は、9月28日深夜2時55分、国際宇宙ステーション(ISS)に結合した。

ドッキングする「こうのとり」

「今までの打上げ実績と経験からすぐにリカバーできるよう心積もりしました。早くて1週間後での打上げ。そのように想定していました。実際には1週間後は難しかったですが、今はこうして無事に打ち上げることできて安堵しています」

打上げ成功から数週間後、延期となった原因についても説明してくれた。

「9月11日は快晴でした。海に囲まれている種子島は風が強いことで知られていますが、あの日は大気が長い間安定していて、それは私の感覚からしても年間でもめったにないという、独特な気象状況でした。気になった点と言えばその程度でしたから、これまでの打上げ準備と変わらないオペレーションを進めていました。

6時33分29秒(日本標準時間)打上げの約3時間半前の3時05分頃、移動発射台開口部から火災が発生。結果的に打上げは延期となりました。その後の調査の結果で、推進薬充填作業中にエンジンの排出口から滴下している酸素が、開口部の耐熱材に吹きかかり続けることで発生した静電気が発火源となり、発射台に延焼した可能性が高いことを確認しました。

あの日、射点周辺がほぼ無風だったことで、耐熱材の同じ箇所に酸素が吹きかかり続けてしまったことが要因の一端でもあったわけで、想定の幅を広げて考えることの大切さを改めて認識させられた出来事でした」

竹崎展望台
写真右手に見える白い建物は、ロケット打上げ時のマスコミ向け展望台として建てられた竹崎展望台。大型ロケット発射場が眺められる。

リカバーしたH-IIBロケット8号機が再び打ち上がる瞬間、私は東京で、ライブ中継映像を通して見守った。5・4・3・2・1......、ロケットから噴煙が広がった直後のまばゆい閃光。そして閃光から遅れてやってくる音。シンプルで美しいものほどそれに至る苦難のプロセスをほとんど感じさせないものだが、地上の重力を振り切って空を震わせながら真っ直ぐに、実直に、宇宙へと昇っていくロケットに、身体の芯が熱くなった。
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取材・文=水島七恵 写真=後藤武浩

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