ビジネス

2020.10.25 11:30

テレ東名物プロデューサー伊藤P直伝!「小さくても勝つ」方法


「ジャイアンツ」と戦う時に同じようにジャイアンツな鎧は着ないことです。相手の領域を侵食するために、違う方向からいくような発想で企画を作っています。

ただ、実は企画をつくる時に表向きはニッチな看板を作っておくのですが、裏側にはちゃんとマスなテーマを用意している。そういうつくり方をした番組がやはり当たっていますね。

例えば「モヤさま」はたいして惹かれるところもない、モヤモヤした場所を歩くという企画なのですが、太い幹でいうと、昔からあるぶらぶら散歩旅の番組です。惹きのない場所にあえて行くことで、「バカなことやってるな」と見せかけながら、「旅のテレビ東京」のブランドをちゃんと引き継いでいる。

やっぱり普通にやったら他の局には勝てないので、違う所からいく戦略。表向きで企画の差別化をしつつ、番組を面白く見せる見せ方は他局よりも面白くしようとすると、アイディアはいろいろな方向から出て来ますよね。

きらびやかなテレビじゃなくてこげ茶色のテレビを目指すような、キャストも企画もなんか汗かいてるな、というふうにやっているのですが、実は地道にずっとやっていくうちに、なんか気になる存在の番組に仕立て上げていく。そんな番組のつくり方は、「スモール」でも大きな影響力をもつ「スモール・ジャイアンツ」に通じるものがあるのではないでしょうか。

リセットしないで、きちんとへこむ


──「スモール」だからこそできることとは?

失敗。失敗をずっとできる。水準が高い所だと、そこまで行かなかったら失敗だぞ、と言われる。でももともとハードルが低いですから、失敗して当然みたいな。でもその分どんどん新しいトライアルをしていきましょうとなる。1回目で失敗したら2回目でとんとんにもっていって、3回目はちょっと利益出しましょう、みたいな。

モヤさま
常に持ち歩く手帳はアイディアや気になったことの走り書きで埋め尽くされている。モデレーターが「実際にメモから企画になったものは?」と聞くと、「後から読み直せないのでわからないんですよね」。

散々な結果を出してもそれまでの知見をまた生かしてもう1回。それでもう1回やってもほぼ失敗なんだけど、またそこからもう1回いこうか、と。知恵を絞ってなるべく多くの選択肢を生かしつつ、知見を生かして当たり目を探していくのは、「スモール」だからこそできるんじゃないですかね。僕もほとんど失敗。今でも失敗ですね。

──失敗した時、伊藤さんはどのようにリセットし、立ち直るのですか?

あまりリセットしない、できないですね。いちいち落ち込みますよ。やっぱり会社行きたくないし。でもリセットしない方がいいですね。リセットするとまた同じ失敗してしまうかもしれない。

やっぱり全力で当たると思っているから失敗してへこむわけで。一緒にやった仲間もいるし、少ないお金使ってますから申し訳ないと思うし。かなりへこむけど、でもそれをちゃんと受け入れてきちんと謝って、またその人と一緒に仕事をする。しっかりへこんで精査して、もう1回一緒に失敗できるように、また仕事をする場をそこにつくっていくんです。

反対に「ジャイアンツ」になると、失敗できない所が弱みなんじゃないかと僕は思います。トライアルへの必死さも違うと思いますね。すでに成功体験をしていると、それのバリエーション違いをつくろうとしてしまう。

だから突拍子もない所から「ドン」って落としてくるみたいな突飛なことをできなくなっちゃうんじゃないかな。ちびっ子は恐れを知らないでどんどん前へ進みますよね。どんどん行けるんだという発想そのものを「ジャイアンツ」は殺してしまうこともあるんじゃないかと思います。

でも「スモール」だと、もともと少ないリソースの魅力が生かしていかないといけない。マネジメントにしても大企業のそれとは違って考えていかないと、一瞬でも勝つことはないと思いますね。「ああなりたいな」日テレさんみたいな感じで」ってテレビ東京がやっていたら、もうたぶん会社自体がなかったと思います。
次ページ > 組織は、聴く耳をもてるかどうか

文=河村優 写真=大星直輝(Naoki Ohoshi)

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事